［完］もう二度と会いたくなかった3【佐野万次郎】

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【帰ってる】


【今日はオムライスだよ、気をつけてね】


“帰ってる”って別に一緒に住んでる訳じゃないの、この人わかってるのかな。

ま、いいんだけどね。ちょっと恥ずかしいだけ。


「ただいま」


『おかえり』


台所で作業していたのを一旦止めて、履いているスリッパを鳴らして玄関に向かえば万次郎の姿。

たくさん動いたからか朝とは少しだけ違う、髪の乱れ方。そんな些細な違いさえ愛おしくてたまらない。


「ん」


チュッと額にキスを落とされて笑顔が溢れる。


「なー、風呂入ろ？」


『え、やだ』


「なんで」


なんでってあんたそう言ってこの前一緒に入ったら散々酷いことしたじゃん。

私はちゃんと忘れてねーぞ。



『おひとりでどーぞ』


「は？一緒に入るっつてんだろ」


『はぁ！？ちょ…っ』



もちろん現役空手講師に力なんてかなう訳なくて。

グイグイと手首を引っ張られてお風呂場へと連れていかれる。



『まんじろ…っん』


「黙れ」



はい？なんですと？

黙れってなんだ黙れって。



『…ま、じろっ』



話し聞けよ、我コラ。

私の力を出来る限り尽くして、エプロンを勝手に脱がせようとする彼の手を掴む。


『っわかったから…！その代わり！お触り禁止！！』


「…わかった」



結局、お風呂に入っている間も私と万次郎は攻防を続け、唯一の癒しの時間のはずが、疲れた。









.
















「『いただきます』」



ようやくご飯にありつけ、今日は何したとかどんな生徒さんがいたのとか、他愛もない会話。



「うまい」


『よかった』



家に帰っても一人でどうしようもない不安が溢れて仕方なかった場所が温かい場所に変わっていく。



『(…ねえ、まんじろー)』



私はこんな運命も悪くないって思うよ。



「つーか、オムライスに旗とか何歳児だよ」


『まんじろー、これ好きだったじゃん』


「ンなの昔の話だっつーの」



今は何が好きなの？何か嫌いになったものはある？

あの日々に何を感じて、何を思っていたの？

知りたいこと、教えて欲しいことがいっぱいあるな。



『じゃあもう旗つけない』


「…嘘、つけて」



長かったけれど、いっぱい辛くて苦しかったけれど、たった一つだけわかることは。

あなたを愛してよかったということ。



『へへ〜』


「何笑ってんの、かわい」



ずっとそばにいたい。

だから、ここからもう一度、やり直そう。



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