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ーside 万次郎ー
行くつもりだった。
けど、エマもケンチンもそんな俺を疑ってわざわざスーツまで用意して、会場まで引っ張って。
東卍の奴らとはたまに顔を合わせるし、なんとなく話す気分でもないからとりあえず人がいなさそうなところへ行く。
庭には、こんな祝いの日にぴったりなくらい綺麗に花が咲き、晴天で。ずっと、眺めてられるくらいだった。
ふと、幼い頃のアイツの笑顔を想い出す。
「…クソ」
本当に、あの日からアイツが頭から離れない。人間はつくづく面倒臭いと思う。
そんな考えを消したくて、やっぱり中に入ろうと後ろを振り向いたらあいつが立っていた。
「!」
いつから後ろにいたのか全く見当がつかない。
『…万次郎』
そっと、名前を呼ばれた。あの頃の、無邪気な呼び方ではなく。
俺は、思わず話すことなんて何もないというように彼女の声を無視したが、ポケットに手を突っ込んでいた手首を引っ張られる。
こいつは、いつも強引だ。
『万次郎!お願い…っ、話を聞いて』
今、彼女と話して一体どうなるというのか。
変なことまで口に出しそうで怖かった。
『っぁ…あの、ね…』
彼女は言うことを決めていなかったのだろう。
言葉をつまらせ、でも掴む手だけは強くて。
なんとなく、彼女らしいと思った。
『引き止めて、ごめん…。でも、あのね、私…謝りたくて』
ただひたすら、俺は行こうとしていた方向を見て、彼女の顔は見なかった。
『万次郎は、何も悪くない…』
その一言を聞いて、これから彼女が何を言おうとするのかなんてすぐにわかった。
『私があの日、捕まったのが悪いの…。だから、ね…』
その言葉に、絶望した。
こいつは、Aは、あの日起きたことを自分が悪いと思っている。意味がわからなかった。
12年というこの長い時間、ずっとそう自分を責め続けていたのだろうか。
「(ンなの、あってたまるかよ…)」
形容し難い気持ちが募っておかしくなりそうだった。
「…お前は」
12年ぶりに会話をしたのは二度目。
ほぼ彼女の一方的なものだが。
「お前は、なんもわかってねぇ…」
これまでに向けたことのない声色で彼女にそう言った。
“二度と目の前に現れないでくれ”
ふと、12年前、今は亡き彼女の父と約束したことを思い出した。
今、俺は酷い顔をしているだろう。
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水原カノ(プロフ) - くろしばさん» 嬉しい限りです( ; ; )拙い文章ですが、番外編でもよろしくお願いします…!(*´꒳`*) (2022年2月9日 23時) (レス) id: e0da8650d9 (このIDを非表示/違反報告)
水原カノ(プロフ) - みきさん» そう言っていただけて嬉しいです…!まだ続きますがよろしくお願いします(*´-`) (2022年2月9日 23時) (レス) id: e0da8650d9 (このIDを非表示/違反報告)
くろしば(プロフ) - いつも楽しくワクドキ泣きもしながら読ませていただきました!番外編楽しみにしています!応援してます!頑張ってください! (2022年1月22日 22時) (レス) @page50 id: ba268ba5be (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 番外編楽しみにしてます!この作品めちゃ面白かったです!頑張ってください! (2022年1月22日 16時) (レス) @page50 id: 23779c598a (このIDを非表示/違反報告)
水原カノ(プロフ) - 茶子さん» 素敵なコメントありがとうございます(;_;) ティッシュの供給は間に合っていますでしょうか…?いつでもプレゼントします!(*´ω`*) (2022年1月15日 22時) (レス) id: e0da8650d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水原カノ | 作成日時:2021年12月23日 17時