78話 ページ31
修学旅行から帰ると、はやくも合唱コンクールの話が出てきた。早めに曲を決めて貰えるのは伴奏者の立場としてはかなり有難い。
「今年も伴奏はきーちゃんだよね、安心感やばいわ〜」
クラスメイトの女子にそう言われ、私は少し笑った。
「私はいつも死ぬほど緊張してるけど」
「大丈夫大丈夫、万が一間違えたとしても歌い続けてあげるから」
「ありがとう」
その会話を耳にしてか、春原さんが遠慮がちに話しかけてくる。
「……Aちゃんも、ピアノ弾くの?」
「うん。春原さんも?」
「習ってたよ。だから伴奏やりたいなって思ってるんだ」
「そっか、じゃあオーディションで勝負だね」
「う、うん」
駄目だ、どうしても敵意が滲み出てしまう。春原さんも怯えたような表情をしている気がして、私は一度ため息をついた。話題をちょっとずらそう。
「春原さんはピアノ好きなの?」
「あ、えと、ピアノも好きだけど、褒めてもらうのが嬉しくて……」
「……。深淵先生にかな?」
「うん」
私は小さく彼女に囁いた。
「怒らせようとしてるよね?」
「え、そんなつもりは……」
「じゃあ根っからの無神経で何も考えてないのかな。どういうつもりで言ったの?」
「そんな、そんなつもりほんとになくて……ごめんなさい」
彼女が泣き始める。クラスが静まり返ってこちらに注目している。彼女に悪気がないのは分かっている。不器用なだけだ。聞かれた話題にその事があったから答えただけ。私の心に余裕が無さすぎる事も理性ではわかる。でもどうしようもなく不快だった。目を赤くして泣く彼女をひっぱたきたいくらいには腹が立ってたまらなかった。
「じゃあ一緒に伴奏の練習頑張ろうね」
面倒になって笑顔でそう言うと、彼女は泣きながら頷いた。そのまま教室を出ようとすると、誰かが私の前に立つ。
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