77話 ページ30
会話が無くなれば、夜の海は本当に静かだった。規則的な波の音が耳に心地いい。
外に出ている生徒ももう他には居らず、私はそれをいいことに靴と靴下を脱いだ。
「おい、何してるんだ」
ひたりと湿った砂を踏みしめる。困惑した先生を見つめて私は笑った。
「入りたくなりませんか?足の先くらいは」
「ならん。ホテルに戻る時面倒だろ」
「子供心を失っちゃったんですか?……先生は、死のうって思ったことありますか」
先生の目に警戒の色が走る。仕方ない。親のことを心配してほしくて言ってしまった報いだ。私は少し笑った。なんだかとても気分が悪くなった。
「別に今から水深あるところまで行って溺死なんてしませんからご心配なく。先生の気を引きたいから言ってるんじゃないんです。興味ですよ」
「……ない」
「ないんですか?なんで?」
「痛くて辛そうで怖いからだ」
私は目を丸くして、そうして笑いだしてしまった。声を上げてしばらく笑っていると、先生がジト目でこちらを見ている。
「シンプルな理由ですね」
「お前はどうなんだ」
「ちゃんと計画を立てたことは無いですね。怖くなるので」
「……俺を笑う筋合いはないな?」
「そうですね、だいたい同じでしたね」
先生は薄く微笑んだ。不思議だった。大人だから自分とは遠いと分かっているのに、近く感じてしまう。本当はきっと違うのに。
「そろそろホテルに戻る時間だ」
「そうですか、残念です」
私は海水から離れて、乾いた砂を踏み締めた。温かく感じた。
洗い場で足を念入りに洗って、靴下と靴を履く。
ロビーで先生に微笑んだ。軽く手を振る。
「おやすみなさい」
「……ああ、おやすみ」
私は踵を返して廊下を歩いた。
413人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みゆ - 忘れた頃に戻ってきます。の言葉を待ち続けてました!最高です🥲素敵な作品でいつも読ませてもらってます。これからも応援してます! (2022年8月12日 21時) (レス) @page31 id: df78362649 (このIDを非表示/違反報告)
Niko(プロフ) - 3年ほど前から主さんの作品が好きで、久しぶりに開いたら更新されててびっくりしました...!ずっと応援してます! (2022年6月19日 18時) (レス) id: bff3de95f7 (このIDを非表示/違反報告)
ステラ(プロフ) - 最高すぎます!!!一気読みしちゃいました笑 (2022年6月5日 22時) (レス) @page30 id: c6594e1224 (このIDを非表示/違反報告)
まなぶ - やばい....最高です....絶賛今自分先生に恋してる身なので、気持ちがわかりすぎてえぐいです....続きがすごくみたいです!更新待ってます!! (2022年4月10日 23時) (レス) id: be5b892ffb (このIDを非表示/違反報告)
ハルキ - っっっ〜〜!最高っです!久々の更新が嬉しすぎて「えっ!」って言っちゃいました!これからも応援してます! (2022年4月4日 23時) (レス) @page30 id: 26f7606c1b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ