episode 8 ページ9
首領からの許しを得て、ポートマフィア本部ビルの近くを散歩していた時。
「義姉ちゃん、待て!開けるな!」
誰かの叫び声が聞こえて、視線をそちらへ移したわたしは、奇妙な光景を目の当たりにした。
紫色の雨が、少年と少女と幼女の周りにだけ降り注いでいるのだ。
しかも、幼女は見た事があるような_____。
「あっ、エリス嬢⁉」
呼びかけると、エリス嬢と一緒に少年少女も振り返る。
けれども、わたしの視線はエリス嬢に釘付けだった。
「櫻子じゃない!ちょっと聞いてよ!あの人、炭酸の扱い方が判らないみたいで、地面を転がったファンタをすぐに開けたのよ⁉ありえないでしょ⁉お陰であたしまで濡れちゃったわ!」
「それは災難でしたね。すぐに帰って着替えましょう、首領が心配しておられますよ」
エリス嬢の背中に手を添え、そっと押す。余程不機嫌になっているのか、エリス嬢は頰を膨らませて大人しく押されていた。
それにしても、炭酸の扱い方が判らない人なんて、一体どんな人なんだろう?
少しの好奇心で振り返ったわたしは、後々後悔する事となる。
「櫻子」
ゆっくりと唇が動く。炭酸の扱い方が判らない少女は、わたしを見て、泣きそうな顔をしていた。
姉様だった。
わたしの心には、再開を喜ぶ感情なんて浮かんでこなかった。
ただただ恐怖が浮かんできた。
会ったら駄目だ。逃げなきゃ。でも、姉様と少しだけでも話を………。
様々な感情が渦を巻いたわたしは、結局逃げ出した。
ビルに入ってから、その場に座り込む。不思議そうな顔をしたエリス嬢が、わたしを見つめていた。
ここにいたら駄目だ。
わたしの直感と云う名の何かが、そう告げていた。
ここにいたら、その内姉様と再会してしまう。
65人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時