episode 6 ページ7
「太宰さん、この子と知り合いなんですか?」
白髪少年が尋ねると、太宰治は私を見つめて、緩く首を振った。
「いいや。初対面だ」
今、刃物を持っていなくて本当によかったと思う。
もし“鏡花ちゃん”みたいに短刀を持っていたとしたら、太宰治の首を掻っ切っていたと思うから。
「初対面じゃ………ないっ‼」
思わず叫ぶ。
どうして、どうして覚えていないの?どうして謝ってこないの?自分だけこっちの世界へ来てしまうの?私は太宰治と一緒で、妹がいない世界で倖せになっているけれど、一つだけ太宰治と違うところがある。
私は太宰治と違って、闇の世界へ連れ込まれた櫻子を忘れたりはしていない。
「飯島櫻子」
康成の肩が少しだけ揺れる。一瞥すると、康成は顔を顰めていた。
康成は櫻子を嫌っていた。
『櫻子なんて忘れちまえよ』
よくそう云ってきたけれど、そんな事できないのも、よく判っているはず。
「ねえ、ポートマフィアにいるんでしょ?貴方が連れ込んだんだよ?責任持って連れ戻してきてよ」
「だ、太宰さんはポートマフィアに戻ったりしない!」
白髪少年が庇うように太宰治の前に立つ。
嗚呼、この人は何も判っていない。
別にポートマフィアに戻れ、なんて云っていないのに。
邪魔だなぁ。
余程強い殺気が漏れていたのだろう。
「義姉ちゃん!」
叫ぶように云った康成に腕を摑まれ、私は強制的にその場を後にした。
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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時