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episode 5 ページ6

「ごめんね康成、買い物付き合ってもらっちゃって」

「いいって。今日暇だったし」
大量に紙袋を持った康成が、私を見てゆったりと微笑む。康成は私よりも頭一つ分背が高い。
荷物は全て持ってくれる、頼りになる義弟だ。

私が養子になった畑峰家は、世に云うお金持ちだった。お義父さんは有名企業の社長だし、お義母さんは日本が誇るモデル。そんな2人から産まれた康成は、顔立ちが整っていた。

康成の顔を見ると、何故か太宰治の顔が浮かんでしまう。
そう云えば、彼奴も顔立ちだけは整ってたな。

「康成、次はあそ………こ………」
とあるお店を指差そうとした私は、途中で硬直した。不思議そうな顔をした康成が、私の視線を追う。

太 宰 治。

何食わぬ顔で、昨日の白髪の少年と、黒髪和装の少女と楽しそうに歩いていた。
一瞬で頭に血が上ったけれど、一瞬で冷えていく。
脳裏に、櫻子の冷ややかな視線と言葉が思い浮かんだからだ。

『姉様、人の事云えないでしょ?』

確かにそうだ。
私は踏み出しかけた足を、何とか制する。
じっと睨みつけていると、視線に気づいたように黒髪和装少女がこちらを見た。

「あっ!泉鏡………」
康成が黒髪和装少女を指差して、ふと声をあげる。
気がついたら、黒髪和装少女は康成の喉元に短刀の切っ先を突きつけていた。
「それ以上云ったら………切る」

「鏡花ちゃん!何してるの⁉」
白髪少年が叫ぶと、鏡花ちゃんと呼ばれた少女は短刀を下ろす。
「ごめんなさい、鏡花ちゃんも悪気はないんです」

白髪少年が頭を下げる隣で、“鏡花ちゃん”は無表情で立っていた。
………謝罪は、しないんだ。
「おや、君」

聞こえた。聞き間違えるはずがない。
奴の______太宰治の声だ。
「お久しぶりね、太宰治さん」
私はにこやかに微笑んで、後方を振り返った。

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作者名:茉里 | 作成日時:2019年7月7日 13時

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