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約束の日。
胡蝶のところの三人娘に案内された病室の前でふう、とひとつ息を吐いてドアノブに手をかけ、音の鳴らないようそっと扉を開けた。
こっちに背中を向けていて俺に気づいていない彼女は、手鏡を持って自分自身と睨めっこをしながらぶつぶつと喋っている。
「…やっぱり隊服にすればよかったかな」
「気合い入りすぎって思われたらどうしよ」
「あー…そもそも本当に来てくださるのかな」
「はぁー…」
「不死川様が私を誘う?ありえないよね?」
「夢だったのかな……?私寝ぼけてた…?」
女ってのは、独りの時にこんなにペラペラと喋るもんなのか?亡き母親や妹たちを浮かべてみるも、そんなことは無かったように思う。こいつが、特殊なのか?
「…よォ」
俺の声に小さな身体をびくっと大きく揺らして、バッと音が鳴るほどの勢いで振り向く頭。
こっちを向いた顔は、この間のように目をまんまるに見開いており、みるみるうちに耳が真っ赤に染まっていく。
「……ほ、ほほ本当に来てくださったんですね」
勢いよく立ち上がった彼女の手から手鏡がするりと落ちる。
一歩二歩と近づいてそれを拾って差し出すと、小さな手を少し震わせながら受け取った。
「外で待ってる」
「…………はいっ」
彼女の弱々しい返事を聞いて、踵を返した。
ガチャリ、と扉が閉まったことを確認して廊下の壁にもたれかかると、ハァと盛大なため息が溢れて額を一筋の汗が伝った。
「大丈夫ですか?」
顔を上げると、作り物のような笑顔を貼り付けて近付いてくる胡蝶がいて。
「……大丈夫だァ」
「そうですか?"症状"は悪化しているように見えますけど」
…何度でも問いたい。ふふふ、と笑う此奴は本当に10代そこらなのか。
全てを知り尽くしているかのように見える胡蝶は、俺なんかよりもやはり随分と大人びている。
「……悪化もしていなけりゃ治ってもいねェ」
「恋煩いは長引きますからねー。では、失礼します。楽しんできてくださいね」
「……………」
………楽しめるかよ。
さっき、少し顔を合わせただけでこんなに心臓がうるせェというのに。
一昨日、勢い余って甘味処になんか誘っちまったことを酷く後悔した。
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もみじ(プロフ) - 覚悟を決めし者さん» 決めしちゃんありがとう!(;;)私はここではお話投稿しなくなるけど、相変わらず決めしちゃんのファンだし、これからも決めしちゃんのお話を読者として楽しみにしてるね^^才能に溢れた決めしちゃんが大好きでした!ビッグラヴ!!!! (2021年3月27日 19時) (レス) id: a7517d1b2b (このIDを非表示/違反報告)
覚悟を決めし者(プロフ) - 短い間だったけれど、仲良くしてくれてありがとう……!もみじちゃんと出会えてよかったです!!連投ごめん!!!!ビッグラヴ!!!!! (2021年3月26日 22時) (レス) id: 37c69db3c0 (このIDを非表示/違反報告)
覚悟を決めし者(プロフ) - もみじちゃん……!!コメントが遅れて申し訳ない( ; ; )完結おめでとう!!!恋愛に鈍くて初心な不死川さんらしさが溢れた素敵な作品でした……!!もみじちゃんが占ツク卒業しちゃうの死ぬほど寂しいけど、ずっと応援してるからね!! (2021年3月26日 22時) (レス) id: 37c69db3c0 (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - 蓮さん» 蓮ちゃんありがとうっ!もう蓮ちゃんに言いたいのは……ただただ大好き!!!!それだけ!!!!これからは蓮ファンクラブ代表として読み手にまわるね^^本当にありがとな!!! (2021年3月25日 16時) (レス) id: a7517d1b2b (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - 古猫丸さん» わっ…まさか古猫丸様からコメントをいただけると思っておらず震えておりますっ。私には勿体ないお褒めのお言葉…本当に嬉しいです。ありがとうございます(;;)私、古猫丸様の書く煉獄さんがすっごく大好きなのでこれからも読みにいかせていただきますね^^ (2021年3月25日 16時) (レス) id: a7517d1b2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もみじ | 作成日時:2021年3月1日 19時