最後に、一つだけ。【実況者】 (ページ1)

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※基本的にキヨ目線です。

もうすぐ夏休みに入る、ということで、クラス全体が浮足立っていた、とある7月の朝。
俺が住んでいる北海道には「梅雨」というものがなく、暑苦しさは何の前触れもなく俺達を襲う。
ほとんどの男子生徒は夏服に衣替えし、ほとんどの女子生徒は「日焼け対策」とやらの為か、まだブレザーを着ていて、見ていて暑苦しい。

北海道は寒い地域、と言われているようだが、俺達だって毎年並大抵の暑さは味わっているのだ。

すると、教室の扉がガラッと開く。
いつもはニコニコして入ってくる新任の女教師が、今日はどことなく暗い顔をしている。
どんなことがあっても愛想笑いを崩さない事で有名な担任教師も、流石に暑さには適わないのだろうか。

今日の連絡事項を聞き流しながら、俺は誰も座っていない隣の席をちらりと見た。
いつもならそこには、“中崎 A”という名の女子生徒が座っているはずなのだ。

胸の下までのロングヘアーに、少し猫背気味の背中。休み時間にトイレの前ではしゃいでいる女子たちとは違い、化粧っ気のないさっぱりした顔立ち。特別美人ではないが、すっぴんにしてはカワイイ方だろう。
これといって親しい友人がいるわけでもなさそうで、強いて言うなら、移動教室や購買を共にする程度の友人は存在する。だが、わざわざ休み時間に立ち上がってどうでもいい話をするほどの間柄ではないということは確かだ。

これらは全て、俺が好きで入手している情報ではない。友人については、隣の席であれば必然的に分かるし、容姿については、ホームルームでの教師からの連絡事項を聞き流している間、暇だから隣の席の奴を観察しているだけに過ぎない。

一番後ろの席であれば、教師の話を聞いていなくても、あの口煩い風紀委員の注意が飛んでくることはないのだ。

「最後に一つ、悲しいお知らせがあります。」

そんな声が耳に入り、観察対象が不在だった俺は、仕方なくその「悲しいお知らせ」に耳を傾けた。

「我が1年B組のクラスメイトである中崎Aさんが……昨日、廃ビルから飛び降りた様で、病院に搬送されました。」

急にシン、となった教室に、「今は意識不明の重体だそうです」という女教師の絞り出すような声は、やけに響いて聞こえた。