王帝の姫は幸福を知らない。5【イナアレ】

草葉の隅から星環へ ページ42

至極当然甚だしく かつ何ら不自然さの欠片もないが、授業中の其のような気軽さで 掌が掲げられる事はなかった。 些か興醒めしてしまう程に 呆然の一色を浮かべる眉やら瞳やら、碌なサクラも補助もせず 苦々しげな息をつく強化委員までも同じく。


まぁ流石にこの状況を素面で創り出せるような呑気さ 万が一持ち合わせていたとして、数多のプロジェクトの恩恵により ランドセルを捨てる前には排除されているだろう＿＿＿幾ら道化の猿真似をしていたって 態とこんな醜態を晒す訳があるまい。


ただ腹いせも兼ねた悪戯心と お茶目なウィット溢れる少女らしさ、この二つを開示しておくついでに猫騙しでもという心づもりで こんな手段を取るに至ったのだ。 誰だってあからさまなド阿呆に対し きっちり警戒するような労力を割こうと思わない筈、脳ある私は何とやら である。


どうせ旅の恥は掻き捨て なんて名文句があるくらいなのだし、此処は必要以上だとしても甘んじ 先手必勝で緊張を解した方がいい。 才能ある身ならば軽んじられる塩梅こそ最適、下手に此方の情報を開示するメリットなんぞ 草葉を分けようが有りはしないのだ。


彼等が黙っている理由が “ 知ってるけど返答を図り兼ねている ” からなのか、あるいは “ 単純に私を知らない ” からなのかは心底どうだっていい。 どうせこれから篤と知らしめてやるのだし、昨年のFFで私が目立たなかったのも事実。 更に言えばプレースタイルを置き去りに 顔のみが一人歩きしている状態、名前くらい知らなくても罪など無かろう。


顔だけでも世間様に伝われば御の字、競技自体に興味がなくとも 選手に焦点を絞って興じる者は多い。 現に其処から競技ルールを学び 俗に言う “ 推し ” のプレースタイルを理解しようとする、なんて殊勝なファンもいるくらいだ ごくごく一部だが＿＿＿


と、視界の端で青々と芽吹いた若葉の如く ぴょこりと掌が掲げられる。 手を酷使する競技ではないにしても妙に華奢 かつ小さく薄い其に視線を這わせてゆくと、何処か満足気な表情で 恥じらいを滲ませつつ佇む人物に辿り着く。



「 何かごめんね春菜、でもありがとう。君のお兄さんに その可愛気を是非とも見習って欲しくなったよ 」



天使の配慮に心の中で手を合わせつつ、知らぬ存ぜぬを決め込んでいた裏切り者へ 自分のことを棚に上げて最上級の称賛(皮肉)を贈った。

終わり←礼節重んじ慇懃に

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