王帝の姫は幸福を知らない。5【イナアレ】

星々への霹靂 ページ39

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灰崎凌兵は怪訝さを隠せずにいた。 何も苛立っているという訳ではないが、その眉根にまで刻まれた疑いの証からは 心なしか普段とは違う困惑の色が見受けられる。 加えて言うなら露骨なまでの喧嘩腰だが、これはいつもと変わらない。


靄で満たされたかの如く纏まらない思考、その論点を余さず言葉にするなら 『鬼道の野郎……今度は一体何を企んでやがる？ 本選が見えてきたこの時期に 新参なんざ要らねぇだろうがよ』 といった具合だ。 先程から随分と頭を抱え唸ってはいるが、残念ながら納得いく結論は濁ったままらしい。


己を取り巻く大抵の事象に無頓着な彼であるが、そこまで勘繰るのも無理のない話だろう。 件の偉そうな強化委員から一斉送信されてきた文面は、簡潔にして歯痒いものであった。


「にしても鬼道さん、どうせ教えてくるんなら もっと説明してくれたら良いのにな。 流石にこれじゃ素っ気ないだろ、なぁ佐曽塚？」


「そうそう、俺達だって心の準備しなくっちゃだし〜。 でも結構楽しみだよにゃ、どんなヤツが来るのか」


いかにも男子中学生らしい素直な話題に興じるのは、部内でも仲が良いと評判の折緒と佐曽塚だ。 周りの部員も交えて憶測を展開していく様は、何とも年相応で微笑ましい。


だが灰崎凌兵のみ唯一、この状況を疎ましいものだと感じていた。 何しろ自分は“彼女”の無念を僅かでも晴らす手段として この場を選ばざるを得なかっただけ、よって新参に浮き足立つなど言語道断。 使命と復讐と怒り、それだけが己の行動原理だ。


他の邪魔なんて要らないし煩わしい、だからこそ沸き上がった苛立ちの矛先は その新参とやらに向けられる。 もし碌に使えねぇ奴でも来てみろ、この俺が叩き潰してやる＿＿＿暗く深い憎しみは、時として誂えたように繋がるものだ。


邪魔は潰し雑魚は倒し 目標を完膚なく蹴り飛ばす、己のやるべきは打倒アレスのみ。 融通もききっこない強すぎる信念が、今なお増幅しながら脈打つ心臓の最奥で煮えたぎっている。


「＿＿新入部員が来れば、灰崎も立派な先輩になるんだな。困ったことがあれば何時でも相談に乗るぞ」


そっと掛けられた暖かい言葉にも、だからこそ目立った反論をすることはなかった。 視線だけを相手の蒼い瞳にやり、口の端を歪める。


「あぁ。アンタも精々ナメられねぇようにな、キャプテンさんよ」


そうして悪魔になった彼は、微笑を隔て消し去るように顔を背けた。

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