王帝の姫は幸福を知らない。5【イナアレ】

時は流るる清水の如し ページ38

＿＿＿この場所で聞くのは丁度 八回目くらいだろう、なんて思いながら 定型数を響かせる鐘の音に聴覚を委ねる。 次第に煩わしさを増す喧騒たちが、ようやく私に集中されなくなっただけ良しとしておこうか。


鬼道をなぁなぁで説き伏せて 職員室に案内させた後からは散々だった。 配属は別クラスになって玩具(ゴーグルマント)で遊べなくなるわ、従順さを忘れず教室に訪れてみれば 普通のそれとは比較にならない質問責めを食らうわ。


そもそも慣れない場所に来て緊張している、という可能性がある転校生を早々に迎撃するというのは如何なものか？ けれどもこれこそ転校先での洗礼にして宿命というもの、甘んじて受け入れた末 今に至る。


進学校だから面倒が無さそうだと期待していたのに、やはり中身は中学生。 やれ出身は何処だ 外人なのかとプライバシー皆無、それらを適当に否定していれば 矢継ぎ早にサッカーの話題から転校理由まで。 疑いようもない苦行である。


これにはFFが全国大会に向け いよいよ本格的に盛り上がってきた背景があると予想されるが、それにしたって心の準備も無しにあれは堪えた。 せめて鬼道さえ巻き込めていれば 少しは緩和できただろうに。


幸い窓側の隅という自席に救われ、昼休みの終盤には落ち着いて栄養補給を全うできた。 意図せず縦線を刻んだ眉間を伸ばして溢す溜め息すら、もはや誰にも聞かれていないらしい。 すぐに落ち着いて貰えれば御の字である。


燦々とした陽光はカーテンで仕切って、周りを満たす音の奔流を意識的に遮断する。 本音を言うとほんの僅かばかり疲れてしまったのだ、勿論 限界なんか迎える筈もないが。 疲弊ではなく精神疲労、単なる一時的な低迷にすぎない。


吐息だけの欠伸を肘の内側で隠しながら、徐に腰を折り椅子を引いて 机に上半身を預ける。 投げ出していた両脚を気持ち曲げ、全身を弛ませて視界を閉ざした。 悪魔に対峙するなら万全が吉だ。


まだ見ぬ一年坊を言い訳に利用した後、ゆっくりゆっくりと温もりに屈した。

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