【 回想 】 “ 冷酷 ” ページ31
どうやら唾液に回す水分すらも使い果たしてしまったらしい、弁解のひとつも出てこない現状は何より雄弁だ。直ぐ様保身を述べられるような緩みも、気遣わせてしまうような無駄もとっくに省かれているのだから。
けれど冷静になれるのは、かえって思考が凪いでゆくのは恐らく許容量の超過。彼という存在が目の前に現れたからこそ、私は初めて思考を取り戻せる。
ああ、本当に良かった。この人はやっぱり私の希望であって、どんな未来を突きつけられてもそれは変わらない。
…………でも。
他でもないお父様その人が、こんな生産性のない思考を汲み取るはずがないのも知っている。だから大丈夫だった、最初の一言を吐き捨てられても。
「___これ以上場を乱すつもりなら、分かるな」
はい、お父様。紛れもない意思を伝えようと、ぐらつく首で何とか頷く。辛うじて凝固し始めた赤も彼に怯えて……ううん、畏怖するように流れを塞き止めた。
私に出来るのは、直ぐにこの場を離れて忘れられること。そして、迅速に傷を塞いで無理矢理にでも治すこと。どちらも難易度は限りなく低い、つまり “ 弱っている私にこなせる程度 ” 。
そんな事まで考えて かつ場の有像無像までを気にかけるだなんて、どれだけ理知的で
劣っている者は、応々にして優れた者の思考を把握出来はしないのだ。だから理解を試みる必要はない、言われた通りにここを去るだけ。
立たなきゃ、早く早く速く。もし立てなかったら、そうしたら___
確かに起こした筈の身体が、ぱたりと床に押し付けられた。反射的に息の塊を出せば、“ かふ ” なんて情けない音が余計に無力感を煽る。
どうして? なんで立てないの、別に致死量へ届くほど出血したんじゃないでしょ、怒られたいの? 私っておかしくなっちゃったりした?
もしかしたら、今度こそ心配して貰えるかな?
疎ましげな足音が離れて、代わりとばかりに無機質な集団が駆け寄りながら私を抱き起こす。
やだ。あんた達でお父様の代わりが務まる訳ないじゃない、離して。退いてよ。
声にすら変わらない思念で首を振る。まるで荷物みたいに抱えられても、温かさなんて微塵も感じない。ただただ機械的で無機質だ。
ああ、もう彼の背中も見えない。仕方ないか、こんな騒ぎを起こしたんだから。でも言われてみたかった、
“ どうしたんだ ” って。
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アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» ですが既に手放しかけていた粗末な文へ、こうして温かい言葉を掛けて下さった事 心から感謝しています。末筆ですが改めて、読んで頂きありがとうございました! (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» コメント有り難う御座います、反応が大変遅くなってしまい申し訳ございません。前の作品については仰る通りで、私自身の手で消去致しました。応援して頂いたところ本当に心苦しいのですが、恐らく今後これを更新する事はありません。 (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても楽しく読ませて頂きました!今後とも応援しています!頑張って下さい!(*´ω`*)(((後、前の作品が全て消えてるんですが、気のせいですかね?(´・ω・`)))) (2021年11月6日 10時) (レス) id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 月花さん» はい3コメおめでとありがと大好き…!!()そうそう弱気な吉良ヒ、(幼少期だもの←) コメントはいつだって超絶嬉しいよ…!!本当にありがとう、これからも宜しく! (2020年8月2日 22時) (レス) id: cbb6f528ce (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - 今更感あるけど….シリーズ五本目!おめでとう〜!三コメをいただいていきま〜す(←) ヒロトの名前が出てきたとき、「えっヒロ…吉良ヒ…?…!?」でした、あるちゃんの小説大好きです、更新…無理なく頑張って下さい!!(以上、謎タイミングコメント野郎でした!←) (2020年7月30日 21時) (レス) id: 689878ceda (このIDを非表示/違反報告)
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