独りきりのエチュード ページ24
一人でも平気だとは言ったが、厳密には語弊があった。何せ、私自身が一人になる事を望んでいたのだから。
大きな窓からは灯りが差し込む。何時もなら形こそ違えど我が物顔で夜空に浮かぶ月は、厚い雲に覆われて見えもしない。
光源は室外の街灯のみ、私にとってその薄暗さは馴染み深い類いのものだ。人間とはこうして隠れることに安堵を見出だす生物でもある、と思う。
小さな机の下に荷物を放り、まだ明瞭にならない思考ごと途絶えれば良いとばかりに腰を下ろす。随分と肌触りのいい椅子だ。
本当なら済ませるべき責務だってあるけれど、何となく気力が湧かない。下手に失敗でもしたら威厳も何もあったものじゃないし、大人しく休憩しておくとしよう。
不意に窓枠が軋む。もちろん隙間風に震えるようなことは無いが、その風のせいで雲が移動したらしい___柔らかく、されど冷淡な光の筋が闇を分けた。
まるで空間ごと細く突き刺すようだ、例えるならば針か剣か。いとも容易くこの肌を裂いて、その内貫いてしまいそう。
あぁ、そう言えば。昨日の夕飯を思い出すみたいに、軽々しく己の腕をなぞる。肘より少し前の位置、そこには先ほど春奈に気付かれた傷の痕が横たわっていた。
今思えば愚かしい怪我だ。けれど幼かった私には、きっと他の手段に至るまでを並列思考できるだけの頭脳がなかったのだろう。
それに、申し訳ないじゃないか。年端もいかない子供なんかに、ともすればトラウマを残してしまったかもしれない。
だらりと腕を下げて、床に映る月光だけを見詰める。やけに冷えた空気を吸って、私はまた目を瞑った。
鮮明にして鮮烈な記憶を、更に思い出す為に。
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アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» ですが既に手放しかけていた粗末な文へ、こうして温かい言葉を掛けて下さった事 心から感謝しています。末筆ですが改めて、読んで頂きありがとうございました! (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» コメント有り難う御座います、反応が大変遅くなってしまい申し訳ございません。前の作品については仰る通りで、私自身の手で消去致しました。応援して頂いたところ本当に心苦しいのですが、恐らく今後これを更新する事はありません。 (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても楽しく読ませて頂きました!今後とも応援しています!頑張って下さい!(*´ω`*)(((後、前の作品が全て消えてるんですが、気のせいですかね?(´・ω・`)))) (2021年11月6日 10時) (レス) id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 月花さん» はい3コメおめでとありがと大好き…!!()そうそう弱気な吉良ヒ、(幼少期だもの←) コメントはいつだって超絶嬉しいよ…!!本当にありがとう、これからも宜しく! (2020年8月2日 22時) (レス) id: cbb6f528ce (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - 今更感あるけど….シリーズ五本目!おめでとう〜!三コメをいただいていきま〜す(←) ヒロトの名前が出てきたとき、「えっヒロ…吉良ヒ…?…!?」でした、あるちゃんの小説大好きです、更新…無理なく頑張って下さい!!(以上、謎タイミングコメント野郎でした!←) (2020年7月30日 21時) (レス) id: 689878ceda (このIDを非表示/違反報告)
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