【回想】真紅と碧を合わせた子 ページ17
氷は溶け始めているというのに、ちっとも味が薄くならないジュースで口の中を満たす。先程から何となく黙っていたけれど、こうしていれば気不味くはならない。
けれど、そろそろこの沈黙も保たなくなってくるだろう。冷えたグラスの中身は氷だけになりそうだし、ずっと持ち続けていたせいで手も随分と冷えてしまっていた。
折角忘れかけていた“退屈”という二文字が戻ってくるのを感じて__けれど、直前でそれは消え失せる。
「……なぁ、気付いていないのか」
『何を?』
その問い掛けには、こう言うのも無粋だが主語がなかった。よって、私の聞き返しは極めて正しい返答だったはず。
けれども彼は露骨に眉をひそめて、何ならこちらを哀れんでいるかのように軽くうつむいて首を振った。さも私に非があるような仕草である。
「左斜め。俺達をずっと見ているだろう?」
だろう、なんて同意を求められても私は左斜めなど見てすらいなかったのだが。かと言ってここで反論しても意味がないのは火を見るより明らかな為、素直に言われた方向を確認するしかない。
ふと、そこに居た少年と目が合った。
綺麗な藤色に染まった瞳にぴんと上がった睫毛、まるで女の子のように整った顔。髪は曇り空を映したような柔らかい灰色で、何処か寂しげな雰囲気が少年の儚さを引き立てている。
その顔と傍らの男性を見れば、少年の名前や情報はすぐに思い出せた。けれどもやはり、実際見てみると将来が待ち遠しい程の美形だ……最も、そんな事どうだっていいのだが。
どうせならもう少し観察してみたかったのだけど、残念ながら彼はこちらに気付いて、怯えたように視線を逸らしてしまった。それも背中ごと。
「見つけたな?」
確信しか込められていない質問に軽く頷き、取り敢えず一度鬼道に向き直る。
すると、彼は何故だか頭を捻っていた。遅れて私の方に向いて、急いたような口調で新たな疑問を投げ掛ける。
「参加者名簿には目を通していたが、生憎あまり覚えられていなくてな。だから」
『吉良ヒロト。吉良財閥の御曹司であり将来的には跡継ぎになる事が期待されている……現在8歳、私たちの1個下。側に居る着物の人は父親で社長の吉良星二郎。ちなみに姉の吉良瞳子もこの会場に__』
「分かった、もう十分だ」
つらつらと情報を整理して述べ続けていた私の肩に手が置かれ、どうしてか僅かに青ざめた顔の鬼道が中断を促した。
どうせなら、覚えていた全てを言ってしまった方が効率的だと思うのだけど。
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アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» ですが既に手放しかけていた粗末な文へ、こうして温かい言葉を掛けて下さった事 心から感謝しています。末筆ですが改めて、読んで頂きありがとうございました! (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 橋本アリィちゃんさん» コメント有り難う御座います、反応が大変遅くなってしまい申し訳ございません。前の作品については仰る通りで、私自身の手で消去致しました。応援して頂いたところ本当に心苦しいのですが、恐らく今後これを更新する事はありません。 (2022年2月26日 14時) (レス) id: 21e5f63abe (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても楽しく読ませて頂きました!今後とも応援しています!頑張って下さい!(*´ω`*)(((後、前の作品が全て消えてるんですが、気のせいですかね?(´・ω・`)))) (2021年11月6日 10時) (レス) id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
アインツバル - 月花さん» はい3コメおめでとありがと大好き…!!()そうそう弱気な吉良ヒ、(幼少期だもの←) コメントはいつだって超絶嬉しいよ…!!本当にありがとう、これからも宜しく! (2020年8月2日 22時) (レス) id: cbb6f528ce (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - 今更感あるけど….シリーズ五本目!おめでとう〜!三コメをいただいていきま〜す(←) ヒロトの名前が出てきたとき、「えっヒロ…吉良ヒ…?…!?」でした、あるちゃんの小説大好きです、更新…無理なく頑張って下さい!!(以上、謎タイミングコメント野郎でした!←) (2020年7月30日 21時) (レス) id: 689878ceda (このIDを非表示/違反報告)
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