王帝の姫は幸福を知らない。5【イナアレ】

【回想】生意気盛りの二人組 ページ16

「ほう。“楽しい”、とは言わないのか」


何気なく、それでいてこちらの反応を窺うように発せられた言葉。言ってしまえばそれは図星すぎる事で、思わず強張りそうになる頬を隠そうと顔を背けた。


けれど顔を背けるなんて最大の悪手だ、そんな素振りは肯定に他ならないのだから。私もつくづく未熟だ、と痛感する。


どうして大人しくお父様の側に居続けなかったのだろう、なんて後悔すら脳裏を掠めた。若干の悔しさを何とか封じ込むべく、一つ瞬きをして相手を見返す。


『……そう思ってるのは君も同じなんじゃない？』


まあただの推測なんだけどさ、なんて付け足して相手の様子を窺う。少しの動作も顔色の変化も見逃さないように、細部まで気を配ろうと思ったのだが……


「あぁ。こういう場は、俺達のような子供が楽しめるように出来てはいないからな」


そんな駆け引きじみた事をしようと思ったのが馬鹿馬鹿しくなるほど、彼はあっさりと首肯して肩をすくめる。


正直、すごく意外だった。


だって誰が聞き耳を立てているとも分からないこんな場所で、常に監視されているだろう私の人生の中で、本音を溢すなど考えられなかったのだ。


そうしてある意味では怯えている私には、何の気なしに本音を言える彼の姿が眩しくて、自由を突きつけられたようで。


こんなの正しいとは思えないけれど、どうにも羨ましく思えて。


彼は唐突に口をつぐんだ私を一瞥し、先程呼び止めていたウェイターから何かを受け取っては戻ってきて、目の前にそれを突き出した。


「良ければ飲むといい。さっき俺も一杯飲んだが、中々の味だったからな」


ご丁寧にストローまでついたオレンジジュースを受け取り、促されるままに管をくわえて中身を吸い上げれば、柑橘類特有の甘酸っぱさが口内を駆け巡る。


『……おいしい』


何の面白味もない感想をこぼした私を見た彼は何も言わず、けれど何処か満足げな表情で頷いた。


しばらくジュースの甘さと清涼感に夢中になっていたものの、そういえばお礼を言っていないと慌ててストローから口を離す。


『えっと……ありがとう』


我ながら素っ気ないような礼の言葉だけれど、



「どう致しまして。」


それでも彼は、少しの間見惚れるような＿＿優しい太陽みたいな笑みを返してくれたのだった。

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