うちのマネージャーは、仕事ができる。【後編】

59 F ページ9

指で顎を捉える。
噛みつくように口付けて、暗くてもこの距離ならしっかりと見える。
愕然とした北山の顔が。

キスを許可してくれても、無意識だろう、弱いチカラではあるが、俺の肩を押しのけようとしたり、胸板を叩いたりしてくる。


背けようとする顔を
顎を固定して、逃れられないようにする。



「……っ、」



北山は息苦しくなったのか、唇を開いた。
その瞬間を逃さずに、舌を押し入れる。


上顎を舌先でつつくように撫でる。



「……ふ、っ」


生々しい艶声を聞くだけて、背中がぞわりと粟立つのが分かった。
見たことがない顔、聞いたことがない声。



逃げ惑う舌を追いかけて、絡めとる。
きつく吸い上げると、俺の肩や胸板を押していた力が更に弱くなった。力が抜けていく北山とは反対に俺の力は強くなってしまう。


力んで下半身を気にかけては、はぁと息を吐いた。


抵抗とは違う北山。ベッドにぐったりと身を沈め、乱れた呼吸を全て吸い込む勢いで塞ぎ飲み込んだ。



「……きたやま、」
「……っ、くるし、」


息苦しいのだろう、全てを喰ってしまうような勢いの俺のキスに、とろんと蕩けた顔で声を漏らす北山が愛しくてたまらなくなる。



キスがこんなにも高揚するものだとは。
柔らかい北山の唇。
わかりやすい程の、歯磨き粉の味。
爽やかなミントの香り。


ドラマでの偽りのキスとは全く違う。


気持ち良さも、込み上げる情欲も。



互いに酸欠になりそうな程に、息が荒くなり整えるのに互いが無言となる。



酸欠も手伝ってか、目がとろんと北山は眠そうにも見える。
今日も疲れたよな。
顎から指を離して、
短めの前髪を撫でて、寄せるように整えて、
丸い額に、キスを落とした。



愛してる、



「おやすみ」



大きく息を吸った音が聞こえた。
同時に組み敷いていた胸も上下した。
体ごと抱きしめて、耳元で、声には出さずに愛を囁き、声に出して眠りの挨拶を唱えた。



『愛してる』


言えない言葉。
いっそ伝えてしまいたい。
伝えたら、北山はどうする？
俺から離れる？
マネージャーを辞める？


玉森の方に行ってしまう？


んなの怖くてできない。
焦燥感を隠すように、柔らかい耳朶を甘く噛んだ。




眠りについた北山は、息をしているのか不安になるほど、静かで綺麗だ。




先程まで北山に噛み付いていた自身の唇を指先で触れては立ち上がった。
官能的な北山にくらくらする。



収まる気配がない昂りを慰めるために、トイレへと籠った。

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