うちのマネージャーは、仕事ができる。【後編】

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しぶしぶと言う表現がまさにと思うほど、不満が残る顔を見せた後、玉は車を降りた。



「藤ヶ谷も降りて。」


同時に、北山は困惑な表情を浮かべて外へ出るようにと促した。



言われるがままコンクリートに両足をつける。
車内とは違い地下は冷える。
肩を竦めコートの首元をぎゅっと掴んだ。
緊張から余計に寒い。震えそうになる唇を、奥歯を噛み締めて、誤魔化した。



和気あいあいなんかじゃなくて、無言のエレベーター。相乗りする住人は居なかった。
鉢合わせせずに済んで良かった。明らかに不自然だろう。



多少距離はあれど、隣同士のドア。
北山の部屋は角部屋だから、奥になる。


「おやすみ、たま」
「おやすみなさい。ミツさん、藤ヶ谷さん」


玉は、こっちを見ることなく、そのまま鍵を開けると、頭を少し下げて先に入っていった。



毛利さんの部屋。
本当に玉が住んでるんだと、目の当たりにして悔しくなる。



北山が玄関のドアを開ける。
先に入るように、とドアを開けたまま俺の方を見上げた。


……ああ、
可愛い。


何で、こんなにも可愛いんだろう。
今更になって、気付く。
っつか、10代の頃より若返ってね？
童顔に拍車がかかってね？


俺のマネージャーだと知らない、他の事務所の人から北山はよく現場で未だにスカウトされてる。


25過ぎだと分かっててスカウトする人なんていないだろうから、絶対10代だと思われていたんだと思う。



「お邪魔します……」


この玄関に立つのは、二度目だった。
思った以上に広い部屋。そこに続く廊下が見える。
靴を脱ごうと屈んだ後、真上から聞こえてきた声に紐を解く手が止まった。


「……先に風呂入るか？」
「え？」
「それとも俺が先に入るべき？」


そのまま解くこともせず、見上げると、顔を真っ赤に染めた北山が見えた。
オレンジの照明が赤く照らしているのかもしれない。



「……ごめん、俺久しぶりで…順序忘れちゃった」



順序って…？
久しぶり……って？
その生々しい表現に俺まで顔が熱くなる。



「藤ヶ谷の欲求を満たせる自信なんてねーけど、」



もう、



「マネージャーとして鋭意努力します」



そんなマネージャーいねーよ。
馬鹿じゃねーの。



北山は責任感が強い。
冷静に周りを見ることができる面もあれば、
猪突猛進な一面もある。



その真面目さに取り入る俺は、とんだ卑怯者だ。



「……じゃあ先に入って？」


立ち上がり、北山の柔らかい頬にそっと触れた。

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