迷走＊ワールド

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腕に抱きつき絡めば、引き離される。
その繰り返しをする俺らは、もはやコントだった。
冷ややかな目付きをしていた藤ヶ谷もさすがに最後は折れたのか、薄ら笑いを浮かべていた。
いや、薄ら笑いは決して喜ぶことではないのは、知ってるけど。



おかしい。
いつも藤ヶ谷は最上級に甘やかせてくれる。
俺がアイツの太腿に顔を沈めた日には、破顔して襲ってくるに違いない程だと思う。
それが例えバンの中でも。押し倒すには、充分の広さだし、マネージャーには後から、嘘八百を並べるに違いない。



意見は永遠とループし、食い違う。
別れた、と言い張る藤ヶ谷に、別れる訳ないと主張する俺。
平行線な状況のまま、バンは駐車場をくぐり抜け、目的地へと着いてしまった。



バンを降りれば、こんな話はできない。
楽屋までは、互いに無言になる。
無言の時でも、藤ヶ谷はいつも俺の横か半歩前を歩き、歩幅を合わせてくれていた。



しかし、今日はどうだ。
スタスタとひたすら早歩きで進んでいく。
悔しいが、歩幅が俺より広いので、差はどうしても開いてしまう。



藤ヶ谷は、一度もこちらを振り向かなかった。



『早くおいで。』



そう言って、照れくさそうに立ち止まってくれない。グループ名が貼られてる控え室の扉を開き、パタンと閉められた。



取り残された自分に戸惑う。
目の前で、重い扉が閉められてしまった。
もはやそれは、俺の知ってる藤ヶ谷ではなかった。
喧嘩をした時だって、こんな人権をまるで無視するような事をされたことがなかったのだから。



じゃあ、あれは、誰……？



見た目は確かに藤ヶ谷だが、藤ヶ谷のマスクを被った宇宙人なのかもしれない。
いや、んな訳ねーか。SF観すぎたわ。



閉められたドアノブを回し、ギギギッと開けて、楽屋に足を踏み入れる。
そこには、いつもと何も変わらないメンバーが居た。


メンバーになら、訊ける。



「おはよう」



返ってくる挨拶の中、奥のソファに既に腰掛けていた藤ヶ谷を見れば、既に台本を片手に何かの練習を始めていた。こっちを見向きもしない。
こうなったら、もう！
嫉妬作戦実行してやる。



藤ヶ谷は嫉妬深い
底が深すぎる。やり過ぎれば、睡眠時間を確保できる補償はなくなる程。
それでもそっちがよく分からぬ事を言い張るのなら、俺だって…！



ソファでスマホをいじってる玉ちゃんに擦り寄った。玉ちゃんは藤ヶ谷からの嫉妬が面倒くさくていつも俺からのスキンシップをするり、と逃げるけど。

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