迷走＊ワールド

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「身に覚えないんだけど」


んーっと腕を組み首を傾げる横尾さんはどこかおちゃめなところがある。そこは変わらないんだな。



「名前は言わないよ。だけどひとつヒントあげる。プロデューサーだよん」
「ぷ、ぷろでゅーさー？」



意表を突かれたのか、目を点にしながら聞き返す横尾さんに笑って見せた。



「横尾さん、世界を広げて見てよ。男は、藤ヶ谷だけじゃないよ。」
「……は、」
「んはっ、何となく思っただけ。」
「べ、別に俺は、太輔を……」



バタバタする横尾さんに意地悪言っちゃった。
動揺を隠せない横尾さんに真摯に向き合いたい。
胡座から正座に変えた。つちくれがざらつく。



「俺は藤ヶ谷が好きだから。こっちの世界に居る間は、やっぱり藤ヶ谷に大好きだと伝え続けたい。」
「……、」
「だけど、もしこっちの世界の俺が、また藤ヶ谷を突き放したら、横尾さんが藤ヶ谷を幸せにしてやって欲しい。」
「……、」
「勝手なことを言ってるのはわかってる。俺は俺のことしか考えてない。でもさ、もしこっちの世界の俺が戻った時、藤ヶ谷を求めて藤ヶ谷も受け入れたらさ、横尾さんは藤ヶ谷の事を諦めてほしい。」
「……何で、そんな事言われなきゃならないの。」
「俺は自分の世界の横尾さんを知ってるから。諦めることで、幸せになることもあるんだと思える。」



もし、自分の世界の横尾さんが藤ヶ谷を好きだったとしても、それはきっと過去だ。今は本当に幸せそうだった。だから、何か思うんだよ。横尾さんは、他に幸せを見つけるって。思いたいんだと思う。
人の幸せを決めつけるのは、最低だとわかってる。それでも、そうあって欲しいという俺のエゴであり願望だった。



「……いつから、俺の気持ち気付いてたの？」
「初めての時。藤ヶ谷を想って牽制したでしょ？あの時かな。」


本当は違うけど。
嘘も方便、だよな。



「そっか、そんな鋭いミツがそう言うならそっちの世界の俺幸せなんだろーなあ」



腕を上げて伸びをする横尾さん。その指先はそっと幹に触れた。



「不思議だなー。この地球には信じられない事がたくさんあるんだって改めて知れたかも。」
「俺も」
「壮大過ぎて、自分の悩みなんてちっぽけに思えてきたわ」
「横尾さん、」


沈んでいた表情は、光を纏って見えた。
俺の好きな笑顔だった。
カッコいい横尾さん。おちゃめな横尾さん。



「ありがとう。ミツに逢えてよかった」



エゴを押し付けたに過ぎない俺には眩しすぎる。
ごめん。

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