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恐る恐る震える指先で受話のボタンを押した後、耳にあてる。スピーカーから聞こえてきた低めの声に、不安で張り裂けそうになっていた気持ちが和らぎ、涙が出そうになる。
こっちの世界の藤ヶ谷は、俺の事を恨んでる。だから。関わりたくないはずなのに掛けてくれたことが分かり、嬉しくなる。
「もしもし。」
『もしもし。北山?』
スピーカー越しの声はどこか疲れているように思える。きっと、稽古が大変だったんだろう。こっちの世界でも同じように初日が近づいていた。
藤ヶ谷はやっぱり優しいんだ、だからこうして気にかけて、電話をくれた。
「おう。お疲れい。稽古終わった?」
『うん。今日も沢山刺激を貰ったわ』
「よかったなー。遅くまでお疲れ様です」
意外と普通に話せてしまってる。
今朝の楽屋の時と違うのが声色で分かった。
顔を見なくても、分かるよ。
なんたって、藤ヶ谷検定首席だからな。
『ふふっ、ありがとう』
藤ヶ谷の柔らかい声色は、安らぎを与えてくれる。
俺はこっちの世界じゃもう藤ヶ谷に安らぎは与えてやれねーけど。心から労ってるよ。
「あ〜今日は混乱させちゃってさ悪かった。俺、自分でなんとかするから。」
虚勢を張らないと、押し潰されそうになる。
だから、おどけた口調で距離をはかってみた。迷惑はかけられない。
『その事なんだけど。聞きたいことがあって。夜遅くて申し訳ないけどさ。そっちに行ってもいいかな?』
「え……」
予想外の返答に固まる。
横尾さんの言葉が浮かび、即答が出来ない。
藤ヶ谷に逢えば、甘えたくなる。触れたくなる。でもそれは藤ヶ谷を傷つけるかもしれない。
藤ヶ谷に嫌がられてしまうのことには、耐えられない。
『ってゆうか、もうマンションの前に居たりして。よかったら、ロック解除してくれる?』
照れ臭そうに笑う藤ヶ谷が浮かんでソファから急いで立ち上がると、すぐにキッチンのセキュリティモニターの所まで小走りで向かい、ロックの解除をした。
モニターに映っていた藤ヶ谷は、キャップを目深にかぶっていた。
*
「お茶かコーヒーどっちがいい?」
「んじゃぁ、水貰っていい?」
「ん。」
ロゴが入った白色のTシャツにデニムとシンプルな服装は、今朝とは違った。稽古の後、着替えたのだろうか。冷蔵庫を開けて、2ℓの水のペットボトルのキャップを外して、透明なグラスに注ぐ。
俺にとってはいつもの光景だった。
その定位置に藤ヶ谷は自ら座っていた。
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まいまい(プロフ) - 無事に還ってこれましたね…でも別れている世界線の2人がまだ結ばれてない!!どうかどうかそっちの2人とYさんのこともよろしくお願いします!! (2021年6月9日 11時) (レス) id: d8ffbdef31 (このIDを非表示/違反報告)
ももは(プロフ) - 1632さん» 1632さんっ!いつもありがとうございます!もうすぐ他の長編が完結するので、こちらも執筆始めます…!長らく更新せず、遅くなってしまい申し訳ございません(;▽;)本当にいつもありがとうございます!感謝でいっぱいです! (2019年10月6日 11時) (レス) id: db5af09c34 (このIDを非表示/違反報告)
1632(プロフ) - こんにちは、北山くん戻れてよかったです!もうひとつの世界の北山くんも幸せになれたかすごく気になります(><)続き楽しみにしております! (2019年10月3日 21時) (レス) id: a09880b79d (このIDを非表示/違反報告)
ももは(プロフ) - 魚さん» 魚さまっー!わわー!今作もご覧頂き本当にありがとうございます…!嬉しすぎます(;▽;)いつもありがとうございます!はい!飛び蹴りくらっちゃう恋人のFさん、書いてて楽しかったです!更新またしたいと思いますー!違う北山くん目線、少し不安ですが〜!書きます☆ (2019年9月4日 21時) (レス) id: db5af09c34 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 飛び蹴りを食らっちゃう藤ヶ谷さん可愛くて思わず笑ってしまいました!笑 元の世界の北山くんに出会えて何より嬉しいですよね〜(*^^*)! お仕事大変そうですが、お体大切にしてくださいね。゚(゚^ω^゚)゚。!更新また楽しみにしてます〜! (2019年9月2日 1時) (レス) id: cc0d16b1ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももは | 作成日時:2019年8月15日 22時