囲われたミツと花【前編】

31 K ページ31

「宏光、待って。」
「……」
「今日、宏光を抱いてないんだけど」


ハンバーグを棄てたその手で、俺の手首を掴んだ。
世話になってる以上、この手を振り払う事は出来ない。求められれば、それに応えなければならない。
それが、俺の仕事だから。
家事とかそういった事を一切しなくていいと言った唯一与えられた仕事。太輔を待つことだ。



「…今日はさ、宏光から奉仕して？宏光が上になって動いて」




連れられた寝室。
押し倒された、ベッドの上。
背中がシーツに沈んだと思うと、反転させられ、太輔の上へと馬乗りになるように命じられた。



太輔は、こんな風に俺を抱いた事はなかった。
その夜は、食事を取ることもせず、太輔に言われるがまま、太輔の昂りを口で奉仕し、上に乗って受け入れた。激しく突かれるままに、腰を振り、かと思えば、全く動かない太輔の上で、何度も動くように求められた。



首筋だけではなく、身体中を舌が這い、吸いつかれた。



電気も消してくれず、ついたたまま───…




意識を手放して、目を覚ますと、翌日になっていた。
太輔の温もりはなかった。
ドロドロになっていた筈のシーツは、綺麗になっていて、自分の身体もベトベトしてなくて、綺麗にバスローブで包まれていた。



軋むベッドの音を聞きながら、起き上がると、自分たちの行為を見ながらシたいと言って、以前に太輔が置いていた大きめな鏡が目に入る。




窓から射し込む光を浴びて映るバスローブから覗く自分の身体は、もう痕がないところが見つけられないほど紅く染められた痕に埋め尽くされていた。
胸元も、腹も、首筋も、鎖骨も、太腿も。



内出血の痕が、痛々しく感じる。



「…これじゃ、サウナいけないね」



首筋だけじゃない。
隠すなんて、もはや意味もなさないそれに、何故か絶望の淵に立たされた気すらした。



太輔には、感謝してる。
でも、抜け出したいと強く思ってしまってる自分もいる。



何とか立ち上がり、リビングへと向かうと、ダイニングテーブルの上に紙切れとサンドウィッチが置かれていた。



『両親が帰ってくるので、あんこは3日後、返します 』



読んだ瞬間、その紙切れをクシャッと握り潰していた。



「…あんこ、」
「く〜ん」



俺の異変に気づいたのか、寄り添ってくれるあんこの茶色い背中をそっと撫でる。またひとりになる。
太輔を待つためだけに、生きる生活。ここで、守られて────…



「…玉ちゃん、」


孤独の…
逢いたい…

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