囲われたミツと花【前編】

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「美味しいー！！」
「ふは、良かった。自分で作ると更に美味く感じるもんだよ」
「いや、にしてもこのレシピだって！」



焼け終わり、ダイニングテーブルに運ぶと、向かい合って座り、口に運んだ。甘辛いソースが口の中に広がる。
肉の旨味もジルっと舌を刺激し、頬が落ちるほど美味しい。


思わず箸を置いて、頬を両手で覆ってしまうぐらいに。



「喜んでくれて、よかったよ。食べるって凄く大切な事だし」
「働くようになってから、余計にご飯が美味しく感じるかも！」
「でしょ。」
「うん。太輔も料理上手なんだよ。色々卒なくこなせるところは、玉ちゃんに似てるかも」
「………そう」



太輔は、何でも出来る。
だから、甘えてしまっていた。世話を焼いてくれる事に頼り、やらなくていいと言ってくれるのを鵜呑みにして、本当に殻に閉じこもり、依存してしまっていた。




＊



帰宅して、すぐに下ごしらえをした。
昼夜ハンバーグというのは、少しキツいけど太輔に喜んで欲しかった。「美味しいよ」って言って笑って欲しい。


玉ちゃんに教えてもらったレシピのメモを、調理台の奥へと置き、食材を冷蔵庫から取り出し、ボウルの中へといれる。


ひき肉は、まだ固く解凍できなかったため、レンジに入れると、教えてもらった解凍ボタンと記載されていたグラム数をセットして、スタートを押した。



洗ったにんじんの皮をピーラーで剥き、まな板の上に置くと細かく包丁で切っていく。



「………、」



その後、玉ねぎを切ってると目に染みる。
思い出してしまった。目に染みて零れてきた涙をタオルで拭ってくれた玉ちゃんにキスされたことを。



思わず、包丁を置いて…指先は唇に触れていた。




きゅン、とまた胸が苦しくなる。
玉ちゃんは、俺のキスを好きだと言ってくれる。
太輔に悪いと思いながらも、そう言ってもらえる事には、悪い気はしなかった。



振り払うように袖で涙を拭うと、再び包丁を手に取った。



＊



焼き立てを食べて欲しい。火を使う事も禁止されていた。
盛り付けたレタスやトマトが乗っている皿は、冷蔵庫に入ってる。焼くだけのハンバーグもソースを染み込ませ、冷蔵庫に入れておいた。



カチャリ、と音がした。
嬉しくて玄関先へと走った。
俺が走れば、うたた寝してたあんこも追いかけてきた。



「おかえりっ！」
「わんっ！」
「ただいま」


太輔にすぐぎゅっと包み込まれる。
耳裏に、鼻先を押し付けられた。

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