囲われたミツと花【前編】

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玉ちゃんは俺と真逆の男性だった。
オシャレで話し上手だし、顔が広く、老若男女にもよくモテた。
たった数十分の間、玉ちゃんの隣に座ってるだけで、それが分かった。


木製のベンチに背中を預け、リードは玉ちゃんがふたつ持ってくれていた。
足元で二匹の犬が幸せそうに互いの顔を舐め合ってる。



道行く人たちに、まるで全て知り合いかのように、「こんにちは〜」と緩く挨拶をする玉ちゃん。
老若関係なく、女性はその笑顔に頬を染めハニカミながら返す。男性はその笑顔につられて友達かのように返す。


相手から、話しかけられる事も暫しあった。



誰かが前を通る度に、ビクついてしまう自分とは違う。
向こうが近づこうと寄ってくると、「ごめん。わんちゃんがココに居るから」とそれ以上こちらに来ないように、制止してくれてた。


やっぱり、俺が対人恐怖症だということを気づいてるのだろうか。それとも、引きこもりだという事も知られてるのかもしれない。


玉ちゃんは、太輔に会っている。
太輔は、特に何も無かったよ、と言って会った時の事を詳しくは教えてくれなかったけど…
「でも、玉ちゃんには…もう会う必要ないよね？」と念を押された、のを今思い出した。


…やべ、逢ってるし。
ま、バレないよな？鍵だって手元にあるんだし。



初夏の風が心地よく、玉ちゃんの黒髪を揺らす。
その黒髪を思わず見上げていた。
綺麗だな。透き通るような雰囲気を纏っていた。



やっぱり、玉ちゃんは怖くない。


こうして木下闇で外の空気に触れ過ごす。
それが、こんなにも穏やかな気持ちにさせてくれる事に、胸は高鳴っていた。



耳を澄ませば、小鳥の囀りや少し離れた線路を走る電車の音が聞こえた。車の音も。
10階から聴く音とは違うものが存在していた。



同じモノの筈なのに、全然違う。



運動もしない俺は、10階から階段を降りるだけで、息が上がってしまったけど....玉ちゃんだったら、上がらないんだろうな、と思った。
シャツやズボンの上からでも分かる。
細いのに、引き締まった筋肉がハッキリと線を描いていた。



同じ白さでも、玉ちゃんと自分の白さは違う。



「ミツ、ちょっと歩かない？俺さ、歩くの好きなんだ」
「…うん！」
「ゆっくり歩こう」



ふたつ重なっていたリードをひとつ差し出した。
赤いリードを玉ちゃんが俺の腕に巻いてくれる。



「立てるかな？」


手首を優しく掴むと、引いてくれた。
そのお陰で簡単に立ち上がる事ができた。

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