94.とっておき ページ48
夕食の片付けを終えてマネージャーたちにもようやく休息の時間となった頃。お風呂上がりのAは自販機の前で炭酸飲料を買っていた。
火照った体を冷やすために炭酸飲料のボトルを片手に外に出る。歩きながらプシュッと炭酸飲料の蓋を開ければ途端に甘い香りが広がった。一旦立ち止まって飲み口に口をつけようとした時、聞き覚えのある声が耳に入った。
声が聞こえた方に目をやるとちょうどベンチの裏側からひとつの影が見えた。電話をしているのか携帯電話を片耳に当てている。Aは誰がいるのか判別するために少し距離を詰める。
「…考える時間をください。必ず答えは出します」
会話を締めくくるような言葉が聞こえると声の主がベンチの裏から姿を現した。ため息をついたのはエマだった。エマはおもむろに顔を上げ、Aと目が合う。
「A先輩！？い、いつからそこに…」
「さっき偶然通りかかったんだ。何も聞いてないよ」
いつものエマならば何事もなかったかのようにふるまえたのだろうが、この時彼女は冷静ではなかった。Aを上から下まで観察し、Aの言葉に噓偽りがないことを悟ると顔を赤くした。
「すみません、私てっきり盗み聞きされていたものだと、とんでもない勘違いを…」
「かなり失礼なこと言うねぇ…Aさんちょっと傷ついた」
Aの発言に申し訳なさそうに謝るエマがさらに焦ったように地面に手を付けて土下座の準備を始めたので、Aが慌てて「冗談だよ」と告げればほっとしたのか緊張でこわばったエマの顔が緩んだ。
表情は緩んだものの、何か考えこむように黙り込んでしまうエマ。こんな風に悩む彼女を見るのは初めてだ。先ほどの会話の内容からしてエマが相当考え込んでしまっていることは明白だ。
何か出来ることはないかと考えあぐねたAはとある案を思いついた。エマの肩を軽く叩いて思考の海から彼女を現実に引き戻す。
「ようし、じゃあ私のとっておきの場所に連れて行こう」
「え」
ポカンとした表情になったエマを見てAは続ける。
「明日の朝、迎えに行くからね。異論は認めません！」
Aの剣幕に気圧されたエマは思わず首を縦に振ってしまう。
「じゃあまた明日。おやすみ」
「お、おやすみなさい」
Aが立ち去るとまるで嵐が過ぎ去ったように辺りは静かになった。ひとり残されたエマは未だに頭の整理が追いつかないまま、ふらふらと宿舎に戻っていった。
続く
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加奈子(プロフ) - 星野結花さん» ありがとうございます！ (2019年12月1日 21時) (
レス) id: a62379125a (このIDを非表示/違反報告)
星野結花 - この小説すご〜く好きです!これからも頑張って下さい!応援しています(*^_^*) (2019年12月1日 10時) (レス) id: 09968e6ae8 (このIDを非表示/違反報告)
加奈子(プロフ) - りんねさん» 楽しんでいただけて幸いです！ (2019年6月14日 20時) (レス) id: a62379125a (このIDを非表示/違反報告)
りんね - 妖怪ウォッチもイナズマイレブンも大好きだから見てて楽しいです！ (2019年6月14日 20時) (レス) id: e73a160d29 (このIDを非表示/違反報告)
コロニャん - 返信ありがとうございました！ (2019年6月8日 13時) (レス) id: d3d7c71152 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：加奈子 | 作成日時：2019年4月4日 19時
