深夜のダイナミックお邪魔します ページ27
月が出ている。
妖力回復に努めるため山姥切への力の供給をやめているので体はひどく重いままだが、隣り合って座った体温を感じ、時折月光を取り込むように広げられるその羽が首筋をくすぐる感触に心は穏やかに凪いだ。
ぽつりぽつりと、言葉を落とすように取り止めのない会話をする。
「……?」
静かに時が流れて眠気がそっと寄り添ってきた頃、ふいに彼女が立ち上がり天を見上げた。
ピリリと空気が尖る。
呼応するように羽が逆立った。
「…………何か来る」
「!」
つられて仰いだ夜空に鋭く光が走る。
流れ星なんかじゃない、あれは雷光だ。
──風が、止んだ。
「時空が歪んでる____私の結界が壊れる!?」
「くそッ検非違使か!」
「だれって!?」
とっさに悪態を吐く。
ああそうだろうとも!
長く過去に留まっていたんだ。今まで会敵しなかった方が不自然なくらいだ。
けど、なにもこんなタイミングじゃなくたっていいじゃないか……!
グニャリと歪んだ空間の穴から異形が這い出した。
「ちょっ私の知ってる検非違使と違う!」
「逃げろ!」
遡行軍とも違う、格上のオーラを纏った存在に度肝を抜かれてる彼女に叫ぶ。
重ねた出陣で山姥切の練度は二日間といえどかなり跳ね上がってしまっていた。
ほとんど気力で立ち上がる。体が重い。
けれど彼女に拾われる前、ひとり惨めに戦場から逃げていた時とはまるで違う心持ちで、その切っ先を検非違使に向けた。
彼女を傷つけさせるわけにはいかない!
けど、疲労の溜まっている自分が彼女を守りながらどれだけ動けるか______ッ
その心配を他所に、検非違使は真っ直ぐ山姥切に狙いを定めた。
「っはは、そうか」
妖怪といえど、彼女はこの時代に生きるモノ。
歴史の異物である自分とは違って、検非違使の排除対象から外れたのだろう。
「好都合だ」
ならば、例え無念に折れたとしても、これ以上世話になったこの住処を荒らしたくはない。
山姥切は布を翻し出せる最速で山道を駆けた。
背にかけられた彼女の驚いたような呼び声も置き去りにして、さあ追ってこい!と地を蹴った。
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翡翠琥珀@カリナと咲(プロフ) - ァ"ァ"ァ"好きぃ... (2022年3月31日 15時) (レス) @page42 id: cceed3ce75 (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - 返事がない只の屍のようだ。さん» ちょぎくんの布教が出来て嬉しいです!沼へようこそ。 (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - sesiroさん» ありがとうございます。成り鶴もよろしくお願いします (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - まるさん» ありがとうございます (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
返事がない只の屍のようだ。 - はじめまして!そして完結おめでとうございます!!大好きです!!!終わってしまい寂しいですがちょぎ君、思い出して貰えて良かったね゙ぇ〜!(T△T)ズビィ この小説を切っ掛けでちょぎ君にハマりました!ありがとうございます!!(謎)これからも頑張って下さい! (2021年3月5日 12時) (レス) id: 2157a47614 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mokohu | 作者ホームページ:http://nanos.jp/atlant2d/
作成日時:2020年12月5日 14時