【文スト】この世界と番外編 その十五

＊ ページ35

散々ごねた会合をキャンセルできるわけも無く、
Aと太宰はお偉いお医者様が主催の会合に参加していた。






「また人の患者盗りやがって…」







「美人さんだったからつい」







「明日のオペで手元狂ってメス刺したらごめんなさい」






「医者生命を切られるのはちょっと」







仮にも病院の代表で来ている為、二人とも側から見れば身なりの整った医者だが、
話している内容は小学生並みの会話である。







「おや、太宰君じゃないか」







「Aちゃんあっち行こうか」








「おぉ！誰かと思えば小泉Aか！」







「挟まれました四面楚歌です」







右に森大学病院の森鴎外、左に福地大学病院の福地桜痴。
どちらも二大勢力であり、大勢の医者を連れていた。
太宰は森の後ろにいる中原外科医を見て「うえっ」と嫌そうな顔をした。







「太宰君、戻ってきたかったらいつでも構わないよ。
君の席は開けてあるからね」







「あの蛞蝓が医学界から追放されたら考えます」







「俺も手前が戻ってくるんなら海外に行くわ」







「相変わらずじゃのう…」







太宰と中也の喧嘩を、産婦人科医の尾崎紅葉は呆れたように見ていた。





「小泉君、私は君のことも高く評価しているよ。
その若さで外科医として優秀な上、経験の差こそあれど太宰君と遜色ない才能だ。
引き抜きの話、真剣に考えて…」







「それならうちに来るといい！」







森の言葉を遮り、福地が声を上げた。
彼の後ろで精神科医の条野が「五月蝿い…」と不満そうな顔をする。






「小泉A！うちに来れば最新技術での手術が行える！
上司に患者を奪われてキレまくる必要もないぞ！」







「待ってくださいそれどこで」







「条野が先月見たとか」







Aはそっと条野を睨んだ。
彼は明後日の方を向き、涼しい顔をしている。







「来るなら福地大学病院に！」







「いや、彼女は森大学病院に必要な人材だ、勿論太宰君も」







有名大学病院からの引き抜き。
どうしたものかと考えていると、二人の携帯が同時に鳴った。
緊急オペの呼び出しだった。







「すみません仕事があるので失礼」







「またの機会に」







タイミングの良い呼び出しに二人はその場を後にした。
その後ろ姿は、患者を救う医者であった。
そしてその後、どちらがメインを務めるかで口論になり、
またAが患者を奪われることになるのは後日談だ。

黒百合姫と白雪姫 ［…＊☆紫猫姫☆＊…様リクエスト］→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す