10話 ページ11
『ただいま戻りました』
「おう、遅かったなァ」
『悲鳴嶼さんと少し話をしてたので、遅くなりました』
「晩飯は食ったんか」
『炭治郎君がおにぎりを置いててくれたので、それを』
私がその名前を出した途端、師範から機嫌悪そうなオーラが溢れ出した。
どれだけイラついてるんですか。
『師範は何か食べました？』
「おはぎ」
『少な。そもそもおはぎは晩御飯に入らないですよ』
「だったらお前ェがなんか作れやァ」
『しかたないな…』
･
台所に行って簡単な調理をした。
卵焼きと漬けておいた沢庵。いい漬かり具合だ。
丁度柱稽古に行く前に漬けておいて正解だった。
『師範、晩御飯もってきましたよ』
一声かけてから部屋の中へはいる。
刀の手入れ中のようだった。
「お前ェは鬼殺隊に入ったこと後悔してねェのか」
『凄い今更ですね。…後悔はしてないですよ』
お膳を置いてお茶を注ぎながら師範の質問に答えた。
刀を見ながら私に質問している師範の目は、
いつもより覇気が感じられない。
『貴方について行くと自分で決めたんです。
師範を守る盾になれればそれで十分です』
「ヒヨっ子が一丁前に言うじゃねぇかァ」
刀を鞘に収めてようやくご飯に手をつけた。
一言、「うめぇ」と言って
師範はもぐもぐと食べ進めていく。
『師範』
「あ？」
時々思う。
今日みたいに私が晩御飯を作って、師範がそれを食べて。
美味い、と言う傍で眺めて。
こんな日がずっと続けばいいのに、と。
鬼がいなかったら、
私も師範も鬼殺隊にはいない。
師範は家族と今も仲良く暮らしているし、
玄弥君ともあんな大喧嘩をする事もない。
私もあの村で暮らしていただろう。
「A？」
『いえ、呼んだだけです』
望みすぎてはいけない。
私がここに居られるのは、彼を、師範を守るためだから。
本当なら私はあの夜に死んでいた。
何も言わず、ただ師範がご飯を食べてるのを眺める私を
師範は不思議そうな顔をしながらご飯をたいらげた。
『師範、美味しそうにご飯食べますよね』
「あ？美味いものを不味い顔しながら食うバカがいるかァ？」
『いませんね』
『師範が美味しそうにご飯食べてるの、好きですよ』
「は？」
そう言って私は言い逃げるようにお膳を持って
師範の部屋を出た。
面食らったように師範は口を空けてポカン、としていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 87人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まゆ | 作成日時：2023年5月8日 1時
