#find out.34 ページ34
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背後からわざとらしい咳払いが聞こえたのは
手の中で小さく丸まったティッシュのことを
思い出したのとほぼ同時だった。
『俺のこと忘れてない？』
その声に振り返らずに
目の前の平野くんと顔を見合わせれば
お互いうっすらと意味深な笑みを浮かべて
「「忘れてた」」
二人重なった声にまた笑顔を咲かせると
おいっ！なんて
またわざとらしく大きな声が飛んでくる。
振り返った先のいつものアイドルスマイルくんは
ティッシュ箱片手に、呆れたように笑っていた。
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すっかり暗くなった春の終わりの夜道は
やわらかい風と踏みしめられた桜の香りが
頬を撫でながら通り過ぎていって
また新しい季節へと移り変わることを
教えてくれているようだった。
『よかったな』
不意に降ってきた神宮寺の言葉は
平野くんの意識が戻ったことに対してなのか
気持ちが通じ合ったことに対してなのか
まあ、きっとどっちもだろう。
「うん、ほんとによかった」
『俺のぬれおかきのおかげだな！』
肩にかけていたスクールバッグを持ち直しながら
一歩前を歩く大きな背中。
「バカじゃないの？」
いつもみたいに適当に笑い飛ばしてみせれば
神宮寺は前を向いたまま小さく鼻で笑った。
あと数日入院が必要な平野くんに
またね、と手を振って病院を後にしてから
神宮寺と二人で歩く帰り道の
この時間、この空気感は
もう訪れることはない、そんな気がしていた。
お調子者だけど
いつも一歩引いて見守っていてくれて
なぜか私の気持ちはお見通しで
困った時にはスっと手を差し伸べてくれる
いつのまにか
居心地の良ささえ感じるようになっていた神宮寺に
今までちゃんと伝えてこなかったような気がする
ちょっと照れくさい気持ちを
今の自分なら、言えるような気がして
「じん…ぐうじ」
ほんの少しの迷いが混じった拙い声に
びっくりするくらいの速さで振り返った顔は
まん丸にした目を顰めたような
複雑でヘンテコな表情をしていた。
『ん？なに？』
「いや、その……ありがとう」
いざ言葉にしようとすると
やっぱり恥ずかしさは抜けないけれど
「いろいろ助けてくれて、いつも味方でいてくれて」
大事だと思う気持ちは
ちゃんと伝えたいって、思ったから。
「ありがとう」
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7日目の蝉(プロフ) - lemon09さん» lemon09さんコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです…！そう言ってくださる方がいて本当によかったです。読んでくださってありがとうございました！ (2020年12月10日 22時) (
レス) id: 8841233121 (このIDを非表示/違反報告)
lemon09(プロフ) - 急に終わってしまって寂しくなっちゃいました（笑）でも面白かったです、お疲れ様でした。 (2020年12月9日 4時) (レス) id: 2975f730a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：N | 作成日時：2020年3月12日 1時
