#9 前髪アイデンティティ ページ9
「よかった。ご飯ちゃんと食べてね」
「うん。食べてる」
「野菜もきちんと摂ってる？」
「うん」
その後は、いつも通りのつまんない会話。
いつも通りのつまんない夕飯。つまんないお風呂。
つまんない…寝る時間。
_______また明日、あの人と話せるだろうか。
瞼を閉じた後でそんな野暮なことをふと思ったのは、誰も知らない内緒のお話。
「……あれ」
目が覚めたのは、6時半のアラームよりもちょっと前。
目覚まし無しで自然と起きるなんて、いつぶりだろう。
二度寝する気分にもなれなくて、どっかの誰かさんに急かされたようにフローリングに足をつく。
…どっかの誰かさん。あの瞳と花びらと、それから萌え袖。
起きた瞬間それらが私の頭の中に割り込んできて、変な気分。
いくら人に接してこなかったからって、久々に話した人の顔をこう何度も思い起こすものか。
我ながら、ちょっと呆れた。
濡れた顔をタオルでぎゅっと抑えながら、鏡を見る。
相も変わらず垢抜けない顔。
私の長所って、一体何があるんだろうか。
前髪を留めてたピンを外せば、伸び切った前髪がダランと落ちる。
美容院には、少なくとも半年は行っていない。
あそこは美容師と強制的に話をしなきゃいけないみたいで、ちょっと苦手。
みんな揃いも揃って“彼氏いるの？”とか聞いてくるし。
年頃の女の子がみんなそういうのに興味あるなんて、大間違いなんだから。
「……いやいやいや、いや」
美容師への愚痴をツラツラと並べながら、ついうっかり髪を結えて、長い前髪を流して整えてしまった。
露わになった目と眉毛。
表情丸見えで、なんだか別人みたい。
こんな姿で学校に行ったら、私のメンタルは崩壊する。恥ずかしすぎて。
スル、とゴムを解いて手首に通した。
前髪も再び、前にダラン。
瞼に思い切りかかってて、視界不良っちゃ視界不良だけど…うん。
こっちの方が、まだ落ち着く。
「…あ」
俯きながらまた訪れた校舎裏。
今日は先客がいた。
「コタロー…ごめん、今日も猫缶買ってくるの忘れちゃった」
“にゃあ”なんてまた鳴いて、手を舐めながら毛繕い。
かと思えばゴロンと寝転がって、呑気に寝てる。
…もしかして今、お腹いっぱいなのかな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「平野紫耀」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちこ(プロフ) - yimmさん» はじめまして！コメントありがとうございます。お楽しみ頂いているようで何よりです…！ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月25日 17時) (
レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - もちこさん、はじめまして☆お話楽しく読ませていただいてます。この後の展開を妄想するとなんかだかドキドキ(笑)更新頑張ってください。 (2020年10月25日 7時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - しおりさん» コメントありがとうございます。主人公可愛く書けててよかったです…！これからも是非色んな想像をしながらお楽しみいただけると嬉しいです、よろしくお願いします！！ (2020年10月23日 17時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 欲しいスタンプ俺が買ったるって何語ですか…？永瀬さんの妹になって買って貰いたい！それからなんですか！主人公ちゃんの可愛さ！！永瀬の妹って立場利用して主人公ちゃんと付き合いたい！ (2020年10月22日 21時) (レス) id: 199b427b1e (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます！そう言って頂けてとっても嬉しいです。ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月20日 22時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちこ | 作成日時：2020年10月13日 19時
