#5 賑やかを追いかけて ページ5
…頑張れ。頑張れよ、私。
そう念じている内に、彼はまた前を向いて背中を向けてしまう。
その徐々に遠のいていく後ろ姿をぼんやりと見ながら、ふと思った。
_____人に手を振られるのなんか、いつぶりだろう。
昼休み、目の前で横に揺れてたあの手。
今さっき、そこで振られていたあの手。
私のより一回りも二回りも大きいあの手は、確かに私に向かって“バイバイ”してた。
たったそれだけの事実にこうも落ち着かなくなるのは、何でなんだろうか。
さっきまでの賑やかさが居なくなって、また1人。
トボトボと廊下を歩いて、彼らの歩いて行った線を辿る。
だって、下駄箱こっちなんだもん。
追いかけているみたいでなんかヤダけど、仕方ない。
わはは、なんて笑い声が、階段の下の方から響いてきた。
ちょっと掠れた、覚えやすい声。
もう分かる。しょう、って人だ。
いいな。何か、楽しそう。…とか別に、思わないけど。
「さよならー」
私に毎日必ず声をかけてくるのは、この門番の人くらい。
ぺこっと冷めた会釈をして、駅に向かう。
そういえば、いつの間にか3人の声は聞こえなくなってた。下駄箱を抜けた辺りで…かな。
別に、探してたわけじゃないけど。
改札を通って、電車に乗る。
一人暮らしを始めたっていうのに、交通費を払ってまでわざわざ電車通学。
これには色々とワケがある。
学校のすぐ近くに住んだとして、近所にクラスメイトの家とかあったら何かヤダし。
新しい高校に慣れたらバイトしようとか思ってたけど、学校の近くでバイトしたとして、知ってる人に接客するのも絶対ヤダし。
それだったら10分だけ電車に乗って、ちょっと離れたとこがいい。
そんで選んだのが、4駅隣の町。
安いスーパーも薬局もあるし、マンションのすぐ隣にコンビニもあるし。
うん。中々悪くない。
「…あのー」
家に帰ってから、またお隣さんのピンポンを押す。
別に、好きでこうしているわけじゃない。
けどお節介な母親が、「お隣さんにはこれ渡して挨拶するのよ」なんて言って渡してきたお菓子、賞味期限はあと2日。
「すみません」
ピンポンより遥かに弱気な声と、遥かに内気なノックで目の前のドアを叩く。
けど当然、中の人は出てこない。
「はぁ…もう、面倒臭いなぁ」
毎日毎日何回も、なんでこんなこと。
でも、明後日にはこのルーティーンからきっと解放されている。
だって、いくら何でも賞味期限切れのお菓子を渡すわけにはいかないでしょ。
#6 窓の後ろの憂鬱__side R→←#4 動かずじまいの右手
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「平野紫耀」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちこ(プロフ) - yimmさん» はじめまして！コメントありがとうございます。お楽しみ頂いているようで何よりです…！ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月25日 17時) (
レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - もちこさん、はじめまして☆お話楽しく読ませていただいてます。この後の展開を妄想するとなんかだかドキドキ(笑)更新頑張ってください。 (2020年10月25日 7時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - しおりさん» コメントありがとうございます。主人公可愛く書けててよかったです…！これからも是非色んな想像をしながらお楽しみいただけると嬉しいです、よろしくお願いします！！ (2020年10月23日 17時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 欲しいスタンプ俺が買ったるって何語ですか…？永瀬さんの妹になって買って貰いたい！それからなんですか！主人公ちゃんの可愛さ！！永瀬の妹って立場利用して主人公ちゃんと付き合いたい！ (2020年10月22日 21時) (レス) id: 199b427b1e (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます！そう言って頂けてとっても嬉しいです。ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月20日 22時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちこ | 作成日時：2020年10月13日 19時
