#13 ありふれた景色の中に ページ13
それから忘れていたことを思い出したみたいに、彼は後から付け足した。
「あでも、大丈夫。廉めっちゃ優しいし、ほんといいヤツだから」
…あ。それだけは、ちょっと知ってる。
「じゃねっ」
彼は先生が入ってきたドアの音と同時に、颯爽と去って行った。
なんか…なんか。
話しかけられる度、びっくりしちゃうんだけど。
心臓がバクバクに、なっちゃうんだけど。
それでも心のほんの片隅で、ちょっと嬉しいかもって思ってる自分がいる。
「さよならー」
「…さよなら」
この日、門番に初めて挨拶をした。
5分だけ延びた授業の後、相変わらず誰よりも早く抜け出した教室。
今日はドアを開けても誰もいなくて、何の賑やかさにも駆られずにここまで来れた。
淡々と響く自分だけの足音。
今日は帰ったらお隣さんにもう1回だけ声をかけて、スーパーと薬局に行こう。
丁度シャンプー、切らしてたから。
あと、おにぎり包むアルミホイルも。
「……あ」
________足を止めた。
早足で角を曲がった、その先で。
電信柱の横、アスファルトの上。
そんなどこにでもありふれた光景の中に、私は目を奪われる。
スラっとした長い脚。
息を呑んじゃうくらい、綺麗な横顔。
ウチの制服。
壁にもたれて、右膝だけを少し曲げて。
スマホを見てるあの人がいた。
……どうしよう。
ハタ、と足を止めたまま、身動き1つできやしない。
駅に行こうにも、前を通って行かなきゃいけないし。
声を掛けようにも、なんて言ったらいいか分からない。
…でも、
“廉めっちゃ優しいし、ほんといいヤツだから”
この人はもしかしたら、私が少し間違えたことを言っても。
“なんやねん、それ”って、笑って受け止めてくれるかもしれないの。
「……あ、」
“あの”。
深く息を吸ってから、そう言いかけた。
けど丁度その瞬間、スマホの画面に顔を向けたまま、彼は目線だけを動かして私を見る。
パチっ、と合った目と目。
思わず息が詰まって、心臓がギュンと縮こまった。
「お」
ジリっと上がる口角。
フニャっと細まる目と、同時に浮き出る涙袋。
「偶然やな、猫好きちゃん」
「………」
自分から声を掛けようとした勇気だけはあったけど、いざ声を掛けられると何と言ったらいいか分からない。
おまけに、足もまだ動かせない。
「どしたん、固まって」
歩み寄ったのは、私じゃなくて彼の方。
視界の端に、次々と駅の方へ向かっていく同じ学校の生徒たちが見えていた。
#14 天邪鬼スプリング__side K→←#12 ツンとデレと距離感バカと
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2258人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「平野紫耀」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もちこ(プロフ) - yimmさん» はじめまして！コメントありがとうございます。お楽しみ頂いているようで何よりです…！ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月25日 17時) (
レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
yimm(プロフ) - もちこさん、はじめまして☆お話楽しく読ませていただいてます。この後の展開を妄想するとなんかだかドキドキ(笑)更新頑張ってください。 (2020年10月25日 7時) (レス) id: 72bd3737bf (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - しおりさん» コメントありがとうございます。主人公可愛く書けててよかったです…！これからも是非色んな想像をしながらお楽しみいただけると嬉しいです、よろしくお願いします！！ (2020年10月23日 17時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 欲しいスタンプ俺が買ったるって何語ですか…？永瀬さんの妹になって買って貰いたい！それからなんですか！主人公ちゃんの可愛さ！！永瀬の妹って立場利用して主人公ちゃんと付き合いたい！ (2020年10月22日 21時) (レス) id: 199b427b1e (このIDを非表示/違反報告)
もちこ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます！そう言って頂けてとっても嬉しいです。ご期待に添えるようこれからも更新頑張ります！ (2020年10月20日 22時) (レス) id: 03d75cb96c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もちこ | 作成日時：2020年10月13日 19時
