【d!】我々のメイドリーダー 2 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:16,386 hit

19-3 ページ5

後ろからライターの音と、ふぅと煙を吐き出す音が聞こえる。
あの言葉と態度に言いようのない恐怖に襲われて瞬きすら忘れていたようだ。
もうお姿は見えないのに廊下へ向けられた視線が外せない。

「いっやぁ～初めておうたけど強烈やったわ、あのおっさん」

再度ふぅ～っと長く煙を吐いたのは鬱様。
風に煽られて煙草の香りが私へと届きふわりと包まれる。

「あんま励ますっていうの得意ちゃうけどグルちゃんの発言は許したってほしいな」

思わず空きっぱなしだった口を閉じ、早足で去って行くグルッペン様の後姿を思い出す。

「可哀想やから理由教えてあげたいけどやっぱり本人がちゃんと言うべきやと思うしなぁ…Aちゃんはグルちゃんの専属メイドやし？まぁ、Aちゃんが何か間違ったことをやってわけじゃないから安心して」

そう言って私の肩へ手を置く。

『あの、わたし』
「ん？」
『私って可哀想、なんですか？さっき可哀想って…』
「あ～可哀想やで。やって…」

コツリコツリと革靴が大理石のタイルにぶつかって音を立てる。
徐々に近づく彼に視線を移した。

「Aちゃん泣いとるやん」

そう言って煙草を持っていない反対側の指を私の目元に添える。

「俺泣いてる子には弱いねん」
『わ、わたし』
「ん？泣いてないって？」

そうだ、私は泣いていない。
だって涙なんて流れていない。

「あんな。なにも涙流すことイコール泣いてるって訳ちゃうねん」
『だったら』
「涙流したりわめいたりするだけじゃなくつらい思いすることだって泣いてるって言うねんで」
『…そうなんでしょうか』
「おん。だってこれ、とあ～る凄いエラい人から俺が言われた言葉やもん」
『その“エラい方”がいうことは本当なのですか？』
「俺は本当やって、嘘偽りないんやって思って今まで生きてきたよ」

目元から手を離すと咥えていた煙草を手に持ちふーっと煙を吐く。
そらされた視線はどこか遠い何かを見据えているように思えた。

「ま、俺がおったらほんまに涙流して泣けるわけちゃうやろ。スチュワードも任せろ言うてたし自室戻ってええんちゃう？あれなら俺の指示ってことでどう？」
『とてもありがたいお言葉なのですが、今1人で自室に籠ってしまうと余計辛くなりそうです』
「…そか。なら俺の部屋来る？」
『いえ。仕事がありますのでまたの機会に』
「釣れへんけど今の笑顔よかったで、Aちゃんの笑顔はみんな好きやからな」

そう言ってほほ笑んでくれた彼に再度笑いかけた。