検索窓
今日:50 hit、昨日:14 hit、合計:74,863 hit

02 ページ2







何回も何回も、ベロベロのあいつを抱えて来た大国町のマンション。



エントランスのオートロックのパスワードも、慣れた手つきで入れる。







リ「…珍し。ちゃんと鍵かけとる」


チャイムを鳴らしても音沙汰なし。
仕方なくドアノブを回してみても、ロックされているのがわかるだけ。



ふぅ、と息を吐き、玄関ドアについている郵便受けに手を入れる。



リ「…安全管理どうなっとるん」



よく芸人が集まるこの家の鍵の隠し場所。

磁石がついたキーホルダーで、ペタッとひっついてる鍵。



鍵閉めてたとしても何の意味もない。





鍵穴に入れて回すと、カチャッと音が鳴る。

チェーンついてたらどうしよ、と思っていたがその心配はいらんかったらしい。








リ「おじゃましまーす、、うお、まじか」



入った瞬間にわかる、澱んだ空気。

不健康すぎるタバコと酒の匂い。

あとわずかな……男物の香水の匂い。



玄関を確認すると、それらしいサイズの靴はなく、香水の主は不在のようで少しホッとする。





リ「おーおー、、すごいなこれ」


廊下に転がるゴミ袋を横目に、リビングへと向かう。

前来た時は、綺麗なもんやったのに。









リ「……A」



リビングのソファに三角座りし、ぼーっと目線を浮かしている姿。

自分が思ってた以上に優しい声で呼んでいた。





「…あ、リリーや」



薄暗い部屋で、不健康な顔して、無理ににへらと笑う。

憔悴しきった姿を見て、心臓がキュッとなった。




足元のゴミ袋やら服やらを足蹴にして近づく。

引きよせるために掴んだ腕は、以前とは比べ物にならない細さで。






リ「……ごめん。もっとはよ来たらよかったな」

「へへ、なにがよ。久々やなあ」




腕の中で、力無く発される言葉と、

頼りないその身体。





「急にどしたん?劇場ちゃうの?」

リ「……」

「言うてくれたら、片付けたのに〜」

リ「……」

「変なリリーやなあ、どしたんほんまに」

リ「…もうええから、一回黙って」





ぎゅっと抱きしめると、力が抜けてカタカタ震える。

「…ぅっ」と小さく息が漏れると同時に、堰を切ったかのように泣き声が響く。




ごめんな、辛かったよな

もっとはよ来るべきやった

こんなんなるまで我慢させてごめんな




安心させる言葉を伝えては、背中をさする。

小さくなった身体から、大きな泣き声が続いた。

03→←01 最後。



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (90 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
265人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:よいちょちょちょ丸。 | 作成日時:2022年2月24日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。