記憶(R.Miyadate) (ページ5)

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…

“私と一緒になってくれませんか”

宮舘様から夢のような申し入れをいただいて数日たったある日。

「ご主人はどちらにおいでですか？」

見覚えのないお武家さんが店先にいた私に声をかけてきた。
背が高く、強面の人だ。

「はいっ、中におります、少々お待ち下さい。」

どうやらうちの主は話を聞いていたらしく、喜んで出迎えて奥の部屋にその二人を案内していった。それから、半時くらいだった頃、私はその部屋に呼ばれた。

なんだろう。
挨拶して顔をあげると、

「確かに、涼太が見初めるのも無理はない。」

と、一人がくすりと笑った。さっき強面だと思った男の人だ。
笑うと目尻が下がって、意外とかわいらしくなるんだなぁ。

「A、こちらの方々は宮舘様のご親戚で、お前に縁談を持ってきてくださったんだ。」

「…縁談？」

「そうだよ。」

それってつまり、宮舘様からの…？

岩本と申します、と名乗ってくれた方が私にいきさつを話してくれた。

「涼太は宮舘の跡取りで。昨年くらいから縁談がいくつか舞い込んでも頑なに断り続けていて。俺が理由を聞いたらやっと口を割ったんですよ、心に決めた人がいると。」

「それが、Aだったんですか？」

「はい。どんな人なのか聞いたら色々と教えてくれました。話に聞いた通りのいいお嬢さんですね。」

夢みたいなお話で嬉しいのに、私の心には大きな疑問がのし掛かっていて素直に喜ぶことができなかった。

「あの。とてもありがたいお話なんですが。…私は、旗本のお家に釣り合うような生まれではありません。それでも宮舘様はよろしいのでしょうか？」

「…まぁ、私は構わないと思うんですが親戚筋がうるさいので。この縁談を受けていただけるなら、とある庄屋の養女になってから嫁いでいただきたいのです。…申し訳ない。」

「いえ、そんな。ありがとうございます！」

「良かったなぁA。」

「はい。」

「ではAさん、このお話進めさせていただきます。涼太も喜ぶだろうな。」

夢が、叶うなんて。
この時代に生まれて良かった。養女になれば、大好きな宮舘様の、お嫁さんになれるなんて。

早くに親を亡くしてここに引き取られてから。初めてこんな大きな幸せが訪れた。

これが夢なら覚めないで欲しいとさえ、思った。