記憶(R.Miyadate) (ページ4)

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…

「また来るよ。」

そう言って席をたった宮舘様は、じっと私を見つめると、

「今日は寒いな。頬が赤くなってるよ。」

「え？あ…。」

自分の手で頬に触れると、確かに冷たくて。寒さで赤くなるなんて子供のようで恥ずかしいと、顔を背けた。

「じゃあ、また。」

「はい。ありがとうございました。またお待ちしております。」

こんな、些細な約束しかないけれど。彼がここに来てくれるだけで、幸せだった。

「いい男だよねぇ、宮舘様は。」

「ん…そうだよね。」

いつかは。
あの方はどこかの旗本のお姫様と結婚してしまうのかな。

そんな、見えない未来が私の心を時々曇らせていた。

「嫁げたらいいのにねぇ。」

「へ？と、とつぐって…。」

「できない話でもないよ？こないだ大きな庄屋の娘さんが旗本さんに嫁いだじゃない。」

あぁ、そう言えば。親の代ではあり得ないことだとか言って、店に来たお客さんたちが話題にしてたな。

「でも…私はそんな身分じゃないし。」

「あんたここの親戚でしょ？宮舘様に望まれたら、どこかの豪商の養女になって嫁に行くって言う手もあるんじゃないの。今は、もうなんでもありだよ。こんなご時世だから。」

「そ、んな。夢みたいなこと…。」

新しい時代に移ろうとしているのだろう、世の中は日々誰が斬られただの物騒な話ばかりで。
気忙しい。

そして。それから少したった頃だった。

神妙な顔をした宮舘様に、呼び出されて。

川沿いの道を、少し離れて歩いていた。

「実は、任されたことがあって三月ほど京に行くことになったんだ。」

「京、ですか…。」

京は江戸より治安が不安定になっていると聞く。

そんなところに行って、大丈夫なんだろうか。

もし、この方に何かあったら。

「…文を書くから。俺のこと、待っていてくれないか？」

「え？はい、待ちます。いつでも、」

「いや、あの。そうじゃなくて。」

ひとつ咳払いをすると。

彼は、覚悟を決めたように、私を真っ直ぐに見つめた。

「…無事に帰ってくることができたら、その時は、私と一緒になってくれませんか。」

夢を見ているのかと思った。

でも。

「はい…私なんかでよろしければ。」

「Aがいいんだよ。」

冷えた手を繋ぐと、暖かくなって。
あぁ、これは本当なんだって。

生きてきて、こんなに幸せな気持ちになったことはないと、思ったんだ。