記憶(R.Miyadate) (ページ12)

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(R.side)

夢のようなひとときだった。

しかし。
夢のあとには現実がやって来る。

「母上っ、いったいどういうことなんですか！」

「…宮舘の家を守るのがあなたの役目です。それは分かっていることでしょう。」

「結納の当日まで黙っていてそれはないのではありませんか。こんな騙し討ちのような。」

佐々木の家で会食をすると言われ出向いたら、そこにはすでに結納の準備が整っていた。

見たこともない女がそこにいて。
私の妻になるのだという。

ぶち壊すわけにもいかず、ただ黙ってやりすごしたが。家に帰るとさすがに黙っていることはできなかった。

「これで私もひとつ肩の荷がおりました。」

「母上。」

ひとつ。
気になることがあった。

「母上はこの縁談をまとめるために何か他に策を高じたことがあるのではないですか。」

何も答えやしない。そうか。
やはり、そうなのか。

俺の予感が正しければ。

「照っ、いるか？」

「おう、どうしたまたえらい剣幕だな。」

剣術の稽古に熱心な照は、いつだって真っ直ぐだ。
不確かなことだと話さなかったのには、訳があるはず。

「Aに、会ったよ。」

「…。」

驚いて俺を見ると、照は深く頭を下げた。

「すまない涼太。俺に力がないばっかりにAちゃんを…。」

「泣くな、もう泣いても時は戻らないのだから。…それより、照。高利貸しが旗本と組んで悪事を働いているという話を聞いたことはないか。」

「高利貸しと…？」

「Aから聞いた、支払いを待ってくれと照が掛け合っても圧力がかかってだめになったと。」

「あぁ、利子にもおかしなところがあったのに不自然な圧力がかかったんだ。それで、俺がなぜか取り調べを受けることになって、解放された頃にはもうAちゃんが吉原に行くところで…。」

“Aちゃんっ、”

“岩本様…”

“なんでこんなことになるんだよ”

“お父様は、胸に病があります。無理しないでくださいと、岩本様からも言ってやってください…”

桜の散る中、彼女は吉原の門をくぐっていったという。

「店は残ったんだけどAちゃんの養父は心労がたたってすぐに亡くなった。申し訳ないことをしたって泣いてたな。ここにはもういられないと、残された奥様も江戸を離れて横浜に移り住んだらしい。涼太、この件、どこかの旗本と高利貸しが仕組んだと考えてるのか？」

「そうとしか思えない。」

嫌な予感ほどよく当たる。
そういうもんだろう。