人魚姫2 (ページ27)

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海の、そのなんとも言えない香りが少しの隙間から入り込み、ふと俺の前髪をくすぐる。

閉め忘れたのかな。

そう思って見遣った窓の外に、さっきまで一緒にいた女の顔が映った気がした。

俺の息で、窓ガラスが曇る。

反射的に動いた左掌が、それを拭った。

さっきまで、彼女を掴んでいたはずのこの手。

まだ彼女の体温を残したそれに、そっと飴玉がのった。

「そんな顔して、なんかあったの？」

赤信号で止まったタクシー。その運転席から顔を出したおじさんが、「もう一ついる？」と飴玉の袋をちらつかせる。

「ありがとうございます(笑)」

俺はそう言って、少しだけ笑った。

…俺はいま、どんな顔をしてるんだろう。

ふっと、やらなきゃいけないことを思い出してスマホの画面を開く。

「あ、すみません、今日の予約キャンセルでお願いします。」

本当は、あの後。

彼女と水族館に行った後、海辺を歩いて何となく時間が経って、夕方になって、レストランで食事をして、彼女を家まで送って…

そんなこと考えてた。

いや、そうなるんじゃないかなって思って、昨夜のうちによく行くレストランを予約していた。