36.知ってる。←9.17 ページ36
朝霧ビルに帰ってきたら、すぐに喫茶店へ行きマスターにお金を支払って謝った。
だけどマスターは「Aちゃん、お父さん大丈夫だった?」って心配そうに聞いてくれて「大丈夫だったよ、ありがとう」って応えてたら潤さんに「お、また泣くか?」ってからかわれた。
「あー、マジで焦ったな。無銭飲食は無いわ」
喫茶店から出た所で、潤さんが笑う。
「すっかり忘れてましたよね」
「忘れてたってより、頭に無かった」
「確かに...」
そのまま2人でビルに入る。
潤さんは「じゃあなー」ってエレベーターホールの方へ向かった。
「あ!潤さん!」
「ん?なに?」
「...あの、今日は本当にありがとうございました!」
これ以上深くお辞儀した事は無いわって程に腰を折る。
私的最敬礼。
「いーから、気にすんな」
「じゃあ...気にしないついでに、もういっこ」
「はぁ?何だよ」
顔を顰めてるのに、口の端は上がってる。
そんな表情、イイオトコにしか出来ないよ。
「潤さんもお祭、行きましょうよ」
あんまり重々しくならないように。
切羽詰まってる必死感を出さないように。
年下の小娘がはしゃいでるだけって雰囲気で、私は二ィっと笑って見せた。
どんな返事が来るか分かんないし、今のところ潤さんは全然お祭に行く気無しだし。
でもこのノリなら、断られても傷付かずに済む気がする。
「...えっと...あ!リンゴ飴、食べましょうよ!」
「リンゴ飴、別に好きじゃねぇよ」
「じゃあ、ビール!」
「祭のビール、ぼったくり価格じゃん!」
アハッと笑った潤さんが「ま、そーだな」と頷いた。
「考えとくわ」
それは完全なOKでは無いけど、前向きな返事って感じがして。
私が「楽しみにしてます!」なんて前のめりな事を言うと、潤さんは「まだ『考えとく』って言っただけだろ」ってまた笑った。
潤さんが笑うだけで、こんなに嬉しい。
潤さんは知ってるのかな、自分の笑顔にそんなパワーがあるって事。
きっと知らない。だから、親しくなるまではあんまり笑わないんだ。
もったいないけど、私は笑顔を知ってる。それが嬉しい。
「じゃ、俺行くわ」
「はい!」
エレベーターに乗り込む彼を見送って、私は管理人室に戻る。
にやける頬を両手で押さえてみたけど、そんな自分のポーズがあまりにも乙女で恥ずかしくなってすぐやめた。
冷凍庫に入れたまんまの、貰ったアイスはまだ食べられない。
きっとずっと食べられない。
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橘花(プロフ) - みぞれちゃんいいこ。。パラ潤もやっぱり彼らしくて、すごく素敵なお話でした!淡く苦いような甘いような、夏をすごく感じるお話で。随所で彼女のこととみぞれちゃんのことを考える潤くんが見られて切なかったですね。。10年がどんどん短くなりますように! (2018年10月2日 23時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
Minty(プロフ) - 今頃ごめんだけどやっぱり伝えたくて。私の中のパラ潤はまだまだ彼女を忘れられてなくて、だからみぞれちゃんと話した後は彼女のことを思い出してたんだろうなとか勝手に想像して切なくなってた。そういう裏側の光景まで読めるお話だった。書いてくれてありがとう! (2018年10月1日 23時) (レス) id: 38bee720d5 (このIDを非表示/違反報告)
ま( *^◇^)る(プロフ) - やっと読めた〜!遅くなっちゃった。パラ潤にまた会えて幸せだよーありがと。 (2018年9月25日 19時) (レス) id: 43b5111d45 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん(プロフ) - お疲れ様です。っていうの遅い位かな~ 本編ですが、甘さは無いかもしれませんがキュンが、これでもかって位詰め込まれてて凄く良かったです♪みぞれちゃんも未来に期待ができそうだし…reiさんのお話読めて楽しかった♪ (2018年9月25日 19時) (レス) id: aab6d8833f (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - reiさんのお話はみんな好きですが、このシリーズは特にお気に入りです!キャラがみんないい! まるでその世界にまぎれこんだ気持ちになります ありがとうございました! (2018年9月25日 18時) (レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:rei | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時:2018年8月11日 13時