シャングリラエッジ【ars J.M】

31.ナポリタン。←9.13 ページ31

翌日、喫茶店に行くとお店の壁にも夏祭りのポスターが貼ってあった。

「マスターも行くの？」
「行きたいけどお店を閉めるわけにはいかないからなー」

カウンターの向こうでアハハと笑ってるマスターに「そうだよねぇ」と言うと「花火の時間だけはつい外に出ちゃうけどね」と悪戯っぽい表情を見せる。
確かにここの通りからでも、花火の上半分くらいは見えそう。


「Aちゃんは行くの？」
「うん、行って来る」
「お友達と？」
「お友達...とはちょっと違うかもしれないけど」

私が曖昧に首を傾げるとマスターは「まぁお年頃だもんなぁ」なんてからかうように言ったけど、彼氏じゃないよ！って否定するのもちょっと悲しいからこれも曖昧に笑っておく。
謎の見栄を張っちゃうのも、複雑な女心。


「いらっしゃい」

マスターのその声に、跳ねるような気持ちを抑えて振り返る。
いつものように、サングラスを外しながらお店に入って来る人。
「どうもー」と低く響く声に、つい緩む頬に力を入れる。


「あ、みぞれ」
「こんにちは、潤さん」

弾みそうな声を必死で落ち着かせる。

潤さんは、「アイスコーヒー」とマスターにオーダーしながら二個向こうの席。

「あ、それからナポリタン」

座ったと同時に追加オーダー。

「潤さん、お昼まだ食べてなかったんですか？」
「ちょっと予定が立て込んでたから食い逃した」
「忙しいですねー...」
「忙しくないと困るから、これで良いの」

「とか言いながら、今日は夕方まで空き時間なんだけどねー」と、珍しく気の抜けた感じで大あくび。
あくびしてても格好良い...のは贔屓目？


「お前はやっぱりみぞれ氷なのな」
「美味しいですから」

「食べますか？」なんて冗談っぽくスプーンに乗せた氷を潤さんの方に向けてみたけど、彼は「今はいらない」って薄笑いながら首を振る。残念。

でもちょっと待てよ？「今は」...って事は、ご飯の後なら「あーん」って私に口を開けてくれるって事？
あ、でも潤さんがご飯食べ終わる頃には氷溶けちゃうよ！
マスター、早く早く！早くナポリタンを！


「あ、ねぇ松本くん」
「んー？」

マスター、世間話なんか良いからナポリタンを！

「松本くんは夏祭り行くの？」

おっと！その話題は！
隠してたのに潤さんと一緒に行く事、バレちゃうなー！...二人っきりでは無いけど。


「あー、俺は行かなくても良いかなー」
「...えっ！？」

予想外の答えに、思わず声を上げてしまう。

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