◎ ゆめうつつ [緑] ページ10
黄 side
「…あれ、慎。ご飯食べてないじゃん。…食欲ない?」
『食べたく、ない』
「でもちゃんとご飯食べて、お薬飲まないと。元気にならないぞ〜?」
慎太郎は年が離れた弟。
小児がんで入退院を繰り返して、もう2年になる。
楽しみにしていた小学校にも通えなかったり、直近の外出許可が取り消しになったり。
塵も積もれば山になる。
些細なストレスも山積みになれば、猛威を振るう。
まだ小さな慎太郎の心では処理しきれなかった、もやもやが病室を渦巻く。
『ご飯を食べても、お薬のんでも元気になんてならないじゃん、』
『しんは毎日飲んでるよっ、それでもちっとも良くならないじゃないか!!』
「今は辛いかもしれないけど、続けていたら必ず…」
『うそつき。先生もお兄ちゃんも嘘ばっかり…っ、』
『もういやだ!味がしないご飯も、苦いお薬もぜんぶぜんぶいらないっ、嘘つきな先生もお兄ちゃんもだいっきらい!』
慎太郎の手でテーブルの上に置かれた食事のトレーが床に崩れ落ちる。
俺の陳腐な励ましと慎太郎の心からの叫びがその大きな音に飲み込まれていった。
大人の張り付けた笑顔など子供には通用しない。
それどころか、慎太郎の心を少しずつ削ってぼろぼろにしていた。
俺から目を背けるように布団に潜り込んだ慎太郎。
こんなにも慎太郎は頑張っているのに俺は元気になる言葉一つすらかけてやれない。
なんて情け無い兄なんだ。
床に広がった味噌汁の温度に慎太郎の胸の内が反映されていた。
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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時