◎ あまあまカフェオレ [桃/黒] ページ6
黒 side
昼休み中のキャンパスは、話し声で溢れている。
昼飯はどうするだとか、サークルに何時から行くかだとか、知らないだれかが誰かと付き合っただとか。
どれもこれも自分には縁のない話。
言葉は怖いから、とっくの昔に飲み込んでしまってから胃の中から出てくる気配がなかった。
もう今日はこれで講義は終わりだから、さっさと家に帰って1人で眠ろう。
はやく帰りたい気持ちが、脳から足に伝達される。歩く速度が少しだけ上がった。
「…あの、すみません!」
「あ…えっと、誰か居ませんか。」
足を早めたすぐ後。目の前の自販機の前から聞こえてきた声。
新手のサークルの勧誘か、面倒だから捕まらないようにしよう。
しかし、数秒後に感じる違和感。誰もいない空間に話しかけるその人。
暫く声を出したら、しゃがんで白い手をコンクリートに這わせている。
違う方の手には、白杖が握られていた。
皆、一度はちらりと彼を見るのだが見なかったふりをして通り過ぎていく。
そんな事実に気がつかない彼は必死に何度も何度も、助けを乞うていた。
俺だって、知らんぷりをするその他大勢になれるはずだった。
でも何故だかその場から足が動かなくなる。
放っておけない、とはこんな気持ちなのかと19歳の秋、初めて知ることになるとは思ってもいなかった。
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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時