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緑 side
ここに来た時、樹は今よりもずっと痩せていた。
殆ど骨と皮だけで、自分の力で歩くことさえできなかった。
体の傷も多く、煙草を押し付けられた痕は今でもすらりと伸びる首筋に残されている。
入所当時は入院していた樹に付き添ったり、肉付きが回復してからも2人で通院したり。
樹との思い出は、数え切れないくらい無数に存在する。
缶コーラを飲みながら、病院帰りは皆に内緒で自販機のジュースを買ってやっていたことまで蘇ってきた。
ご飯を食べられるようになって、ぐんぐん背が伸びてもうすぐ俺も越されるだろう。
家庭に恵まれず、生きることさえ困難だった彼はそんな苦難を乗り越えて優しく育ち、今では施設の小さい子の面倒を見てくれるお兄さん。
でも俺にとっても大切な存在なんだ。
「じゃあさ、最後に樹のお願い1つ聞こうかな〜。何がいい?」
『なに、なんでもいいの?』
「しゃーないからな。あ、でもあんまり高級なおねだりは勘弁よ?」
暫くの沈黙。樹は熟考しているみたいだ。
どんなお願いが来るのか身構える。
『……っこ、』
「ん?なに?」
『…だっこしてほしい。』
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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時