◎ エール [青] ページ46
児童養護施設職員の緑と中2の青
緑 side
いつもは質素な部屋が子供たちの飾り付けで華やいでいる。
壁一面にお花が散りばめられて、真ん中には
「じゅりくん いってらっしゃい」
の文字。
はしゃいではしゃいで寝てしまった子供たちを一人一人布団まで運び終えたらすっかり夜は深くなっていた。
「じゅーり、どした?疲れた?」
本日の主役は窓を開けて月を見上げたままたそがれていた。
「ん、飲む?」
『おー、ありがと。慎太郎の奢り?』
「まあな。」
100円にも満たない缶コーラを差し出すと、嬉しそうに笑った樹。
俺も樹の隣に腰掛けて、同じように空を見上げた。
雲ひとつない空に浮かんだ月の光が俺たちを照らす。
「樹、本当おめでとう。」
樹は明日、この施設を出て行く。里親が決まったのだ。
この年齢になってから、里親が見つかることは珍しい。どうしても小さい頃から育てたいと望む方が多いから。
樹を引き取りたいと声をかけられた時にはとても嬉しかった事を今でも覚えている。
「…緊張してんの?」
『まぁ、してないって言ったら嘘になるかな。』
天を仰ぐ横顔は、覚悟を決めたようでもあり、不安そうな影も残している。
この施設に来てちょうど10年。
俺がこの仕事を始めたときにここにやってきたのが樹だった。
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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時