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あなた side
「……ほっくん?」
日が落ちてから、とぼとぼ歩いて帰ると家の前の階段でしゃがんでいたのはほっくんだった。
「だめだよほっくん、こんなに薄着で。風邪ひいちゃうよ。」
『…んぅーん』
「ひぁっ、ちょっとほっくん!どうしたの、っ」
私が近づくと、急にぬくっと立ち上がって私より20センチも高いところからぎゅうっと抱きしめられた。
「……へ、」
数秒ほど抱きしめられたまま固まっていたら、ほっくんは満足したのかわたしから離れてまたしゃがみ込み、階段の溝を指でなぞっている。
「…ねえほっくん、私ねほっくんのことだいすきなんだ。」
「ほっくんはわたしのこと、すき?」
返事なんてないって分かってても抑えきれなくて口をついて出た言葉。
「ごめんね、やっぱりなんでもない。」
玄関先で隣り合ってしゃがみ込む私たちは他の人から見たらどんな風に映っているのだろう。
『んっ、』
「なにこれ、お花?私にくれるの?」
ほっくんは思い出したようにポケットをあさって、少々くたびれた桃色の花を私に差し出した。
破れそうなくらい繊細な花弁は手のひらに置かれた瞬間にぴとりと密着した。
どこで摘んできたかも分からない、名もなき花をこんなに愛おしいと思うのははじめてだった。
「私、ほっくんの隣にいてもいいかな。」
大切なのは、関係に名前をつけることではないことをほっくんの鼓動が教えてくれた。
他の人からの視線なんてどうだっていい。
私たちの関係は、小さな花と夜空に浮かぶ月だけが知っていればいい。
fin
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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時