◎ 舵を取れ [黒] ページ23
黒 side
『何?これ、』
〈こっちの方が北斗も安全だと思って。先生にはお母さんからしっかり説明はするつもりよ。〉
『…頼んでないんだけど。』
〈父さんも、母さんも北斗が心配なんだよ。だからこれを機に高校は支援級に行くのも手だと思うんだ。〉
『俺がそういう風にされるの嫌っていうの、父さんと母さんが1番分かってくれると思ってた。』
俺は生まれつき、心臓が良くなくて。
それでも、特別扱いが嫌だった。だから、なるべく普通で居たくて普通科の学校に通っている。
呼吸を助ける鼻カニューレは手放せなくて、人の手を借りることももちろんあるけど、同級生と肩を並べて生活したいんだ。
でも朝起きてリビングに行くと、そこには目新しい車椅子があった。
両親の目線は俺の足元に向く。
心臓からの血液の巡りが滞る俺は、つい最近足を動かし辛くなった。
足を引きずりながら登下校する俺を見兼ねてなんだと思う。
けれど、その優しさが何より痛かった。
今まで俺の意思を尊重してくれていたと思っていた両親が初めて、俺を腫れ物みたいに扱ったのがショックだった。
『…こんなの、必要ない。高校だって、普通科に行く。どうして母さんたちに勝手に決められなきゃいけないの!?』
〈北斗、落ち着いて。大きな声は体に堪えるから…っ〉
『味方だと思ってたのに、』
ぎゅうっと下唇を噛み締めて悔しさを堪える。
通学リュックを背負ってから、酸素ボンベを手に持つ。
玄関で鼻カニューレを隠すためにマスクをつけた。
上手く動かない足が、現実を突きつけてくるようでまたじわりと涙が滲んだ。
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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時