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赤 side


こういう時は、俺の鼓動を聞かせることにしている。



まだまだ荒く息をする大我の頭を俺の胸に押し当てて、背中をさする。



俺と大我は、養護施設で出会ってからひとりぼっちだったお互いを補い合うようにして生きてきた。



親に捨てられた俺と親を事故で失った大我。



いつだって、世界にはお互いだけだった。



大我は生まれ持った個性のこともあって、18になって施設を出ても行くあてがなく。



俺が離れたら、ほんとに社会から置き去りにされてしまう状態だった。



大我はこんなに強く生きているのに、まだまだ周りの理解を得るのは難しい。



こんなにまっすぐで一生懸命なのにどうして誰も受け入れてくれないのだろう。



こうしてパニックを起こす大我を見るたび、悔しくなる。



『…ふーっ、…はっ…う゛ぅー』



「大我、昨日見たミュージカル面白かったね。…大我はどのセリフが好きなんだっけ?」



「んーと、俺はねえ…あれ?HAHA…!!忘れちゃった!!」



「大我が演じてるのを見て思い出すことにするよ。また明日やってくれる?」



『……んー』



「えー、楽しみなのにぃ」



『……これはまだ、今からずっと昔の話。』



「あれ、HAHAHA!今やるのっ!?いいよぉ!聞いてる!」



大我の記憶の中から、思い出したいと思える楽しい引き出しを選ぶのが俺の役目。



過去の苦しい記憶が忘れられなくても、未来に新しいものを繋ぎ合わせていくことで少しでも明るい未来を作りたい。



『……ぼ、く……はぁ、』



セリフを口に出しているうちに少しずつリラックスしてきたのか、俺の胸に加わる重力が増す。



大我の瞼は少しずつ彼の瞳を覆い隠した。



明日はどんなものを見に行こうか?



どんな音楽を聴こうか?



どんな景色で、大我の記憶を上書きしようか。







fin






青い鳥 [@vanilla_0615]



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作者名:ばにら | 作成日時:2021年10月21日 11時

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