のんきな猫と死にたがり (ページ42)

今日:37 hit、昨日:22 hit、合計:163,483 hit

3#15 ページ42

・

「助けてー！！！」

微量ながらもそう聞こえた気がした。多分、向こう側から、女の子の叫び声が。
そこへ近づい行くと、叫び声以外にもカラカラという音が聞こえた。

建物の陰から覗いてみると、白衣みたいなものを着た太り気味の男性が台車を押す後ろ姿が見える。ここから5つも先の角で曲がったため、どの建物に入ったかまでは捉えられなかったが、さらに絞れた。急いで曲がった先に駆け寄ると、一つの建物から何かを蹴る音とともにまた叫び声が聞こえてきた。

…あっちか。

薄明りのついたスクラップ工場へ入ると、ドラム缶に座らされた女子生徒がいた。多分真木カホリで間違いないだろう。
泣き疲れたみたいで放心状態。意識はあるな、拘束は腕だけ。

男に気づかれないよう背後から近づくと、脇腹に一発蹴りをお見舞いする。痛みに悶えて床に転がったところを見計らって「走れる？」と真木に声をかけた。
頷いたのを確認してドラム缶から降ろす。
「ここを出て右に行ったら多分パトカー来るから」
そう伝えると再度力強く頷いてここを去った。

私は男に向き直ると手元のスタンガンを蹴り上げ取り押さえる。
よし、

「21時51…
　いだっ！！！！」

突然右足に電流が走る。気づくのが遅くなって数秒ショックを与えられた。
もちろん意識はあるけど

さっき一個取り払ったじゃん、
なんで二個も持ってんの！？

と動揺のせいでうまく思考回路が回らない。
スタンガンの威力をなめていた。電流のせいで力が入らず床に尻餅をついてしまう。

「お姉さん、大人しくしようね」

力の入らない手を無理やり動かして右耳からインカムを取って投げつける。
命中せずとも今できる精いっぱいの抵抗。

それでも変わらず、男の顔が、手が、だんだんと近づいてくる。

うわ、ヤバい、
久しぶりにやらかした。
痛いのもう嫌なんだけど、もっかいあの衝撃が来るのかな

そう覚悟した所で突然

「このボケナスが！！！」

という声と共に目の前のスタンガン男が急に吹っ飛んだ。
一瞬何が何だか分からなくて戸惑っていると「大丈夫？」と頭上から伊吹さんの優しい声が降ってきた。

「普通に止めろアホ！」
「あ？足が滑ったんだよ。」

最近聴き慣れてしまった2人の夫婦漫才のような兄弟喧嘩のような声に、私は安心からか、緊張が解けたからか、「あはは！！！」とお腹を抱えて笑ってしまった。

「おまえはまた一人で！！！！」

→