2#5 ページ22
・
陣馬さんの連絡から、後部座席の3人目は"かも"ではなく私の中で確信に変わった。
あれは容疑者の加々見で間違いない。
「…なんかさー赤信号長くない?」
確かに、一向に青に変わらない。大通りだから仕方ないけど…
その間も志摩さんは逃走車両から目を離さずにいて、
突然何か思い立ったようにシートベルトを外し「ちょっと待ってろ」と言って車から降りた。
「え、何しに行ったの?」
「んー、様子を窺いに行ったんじゃないですか」
志摩さんは運転手と話すとバックドアを開けて何か怪しい動きをした。ポケットから万国旗を取り出してまた運転手と話すと1分くらいでメロンパン号に何食わぬ顔で戻ってきた。
「…服装一致。凶器らしき物を握っているのが見えた。恐らく加々見だ」
「ほら見ろー」
「それで車内にボイスレコーダーを置いてきた」
「ん?」
「録音した音声をBluetoothでこっちに飛ばして同時に再生する」
志摩さんはスマホのアプリを起動すると音量を上げてダッシュボードに置いた。
賢いな、さすが捜一、元だけど。
「盗聴?やるね〜違法捜査」
「いや、そうでもないですよ」
「あぁ…
拉致監 禁が現在進行形で起こっているとすれば状況把握に必要な処置となる。
被害者の安全が確保できるまでこのまま尾行、追跡」
「了解」
「Bluetoothはクラス2だから10メートル以内じゃないと接続できない」
「は?もっと早く言えよ!」
「法廷速度。」
志摩さんに注意を受けて渋々ながらアクセルをゆっくり踏んだ。
「あ、A電話貸して」
「はい、」
スマホを受け取ると志摩さんは陣馬さんに連絡を入れた。
さっきバックドアを開けたとき、志摩さんは“フラワーショップ松木”と書かれた菖蒲の花束を見つけたらしい。購入店舗が分かれば人質の前足は探れる。
「どうも…A?」
「あ、いえいえ」
無意識に見惚れていた。
すごいなって。
同時にこの人とバディを組めて良かった、と、初めて思った。
意外にカーっとなりやすいし、一日で車を廃車にするし、
"相棒殺し"って呼ばれてるし…
最初、4機捜に呼ばれた時はちょっと怯んでた。異動が出たから逆らわなかっただけで。
でも、さっきの約1分という短い間で、車内の状況把握を済ませ、手掛かりになりそうな物を発見し、そして盗聴機器(仮)の設置をしてきた志摩さんの一つ一つの行動が、抜かりなくてかっこいいと思った。
→
247人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月12日 0時