のんきな猫と死にたがり (ページ19)

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「え、志摩さんずっと考えてたんですか！？
　可愛いとこあるんですねー！」

「はぁ？伊吹が言い出したんだろ！？」

思わず吹き出して笑ってしまった所をなぜか強く反論される。
あれかな、焦ると言葉遣い荒くなるタイプかな。
それがなんだか面白くて伊吹さんと2人でいじりが止まらない。

「…それ以上言うと車から追い出すぞ」

志摩さんのマジトーンに私は背筋が凍った。
"可愛い"は志摩さんにとって禁句だ。心に留めておこう。

そうこうしていると無線の連絡が入った。

『警視庁から各局、品川区西森で発生した殺人事件の容疑者が現場から逃走。
　容疑者は28歳男性。黄緑のジャンパーにジーパン痩せ型。凶器を所持している模様』

それを聞くと、さっきとは打って変わって伊吹さんは真剣な表情を見せた。

「前の車」
「あ？」
「ダメだ、逃げられる」

伊吹さんはボソッと呟くと、黄色信号なのに前を見つめたままアクセルを踏んだ。

「おーい待て待て待て！」

志摩さんがサイドブレーキを掛けて車を止める。
その勢いで前に進もうとしていた私の頭は思いっきり助手席のシートに激突した。シートベルトが2点式なのが悪い、決して私の体幹の弱さではない。

「大丈夫か？」
「平気です」

おでこを擦りながら体勢を直す。

「何すんだよ！」
「赤だ」
「逃げられちゃうだろ！」

「前詰まってるので平気ですよ」
「あの車がどうした」
「容疑者が乗ってる」

と言われてその車を凝視するが前に進んでいるし、そもそも窓が光を反射していてよく見えない。

「さっき一瞬おばちゃんのフード掴んだ腕が見えた。
　袖の色は黄緑、逃げ出した容疑者と着衣が一致」
「待て待て待て…
　見たのは袖だけ？」
「だけ。一瞬だけ見えた」

「…袖だけ？」
「何度も聞くなよ。メロンパンの次は袖袖魔人か」

「黄緑の服着た奴が都内に何人いると思ってんだよ、
　一瞬見た袖の色だけで容疑者が乗ってるなんて誰が信じるんだ」
「様子が可笑しかったの。おばちゃんも運転してたおっさんも、まじで！」

「袖だけだろ？」
「だけ！」

それでも何か確信があるのか、はたまた自信だけがあるのか…とりあえず引く気は無いらしい。
志摩さんは渋々考えると
「走る、人質監禁立て篭り？」
と聞いた。伊吹さんが必死に首を縦に振る。
袖だけでそこまで自信が持てるのだろうか。

「信じるんですか？」

私の質問に答えることなく志摩さんは無線のマイクを握った。

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